近年注目されている自立支援介護という介護方法。
しかしながら、介護業界にこれまで関わりがなかった方にとっては、あまり聞いたことがない言葉ではないでしょうか?
これから介護業界に携わるという方のために、自立支援介護とはどのような介護なのか、また基本とするケアやメリットについて分かりやすく解説していきたいと思います。
自立支援介護とは?
自立支援介護とは、病気や加齢によって介護が必要になった高齢者の自主性を尊重し、自立した生活ができるように支援する介護のことです。
2018年度の介護報酬改定により「自立支援介護」という考え方に重きを置かれるようになりました。自立支援介護を推進させる目的は「社会保障費の増大を抑えること」です。
しかし、自立支援介護を進めることは社会保障費の抑制以外にも、利用者である高齢者や家族が得られるメリットもたくさんあります。
これまでの介護は「お世話をする介護」が一般的でした。
たとえば、ゆっくりなら自力で食事できる方でも、食事の時間内に済ませられるように職員が食事介助するなど、利用者の手助けをし過ぎてしまっている側面がありました。
お世話をし過ぎてしまうと利用者の介護に対する依存度が高まるだけでなく、できていたことができなくなってしまうなど、身体機能を低下させ自立を妨げてしまうことに繋がってしまいます。
そうならないために、近年では一方的な手助けをするのではなく「自分でできることはやってもらい、できないことだけを手助けする」という方法で、日常生活の自立を目指していくように変化してきています。
自立支援介護の基本となる4つのケア
自立支援介護では、人間が健康であるための基本といえる「4つの基本ケア」を大切にしています。
この基本ケアに取り組むことで、利用者の体調が整い体力や活力を取り戻すことができ、良い効果を得られるようになります。
4つの基本ケアは、どれもがお互いに影響し合っているため、どれか一つが欠けたりいずれかだけをおこなったりするのでは意味がありません。それぞれのケアを丁寧におこなうことが「その人らしく元気に生きる」ことに繋がる重要なポイントです。
それでは、4つの基本ケアについて詳しく見ていきましょう。
(1)水分ケア:1日1500ml
水は人が生きるうえで必要不可欠なものです。人の身体には多くの水分が含まれており、成人は体重の約60%、高齢者は体重の約50%~55%が水分と言われています。身体の水分の多くは筋肉に含まれているため、筋肉量の多さによって身体の水分量も増減するため、筋肉量が減りやすい高齢者は体内の水分量も成人と比べて少なくなっていきます。水分が人間の身体に与える生理的な影響は非常に大きく、水分の摂取量が不足すると脱水症状を引き起こすだけでなく、身体の動きが鈍くなることや脳の覚醒基準が低下し認知症や失禁の原因になることもあります。しかし水分をしっかりと摂取できるようになると、認知症や失禁といった症状や身体の動きや動作の低下を解決していくことが可能になります。自立支援介護の水分ケアでは、高齢者の水分摂取量は1日に1500ml以上が必要とされています。しかし、高齢になると体の感覚が衰えてくることで喉の渇きを感じにくくなってしまい、水分を積極的に摂ることが少なくなり脱水気味になっている方は少なくありません。そのため、介護する人がこまめに水分摂取を促すことがとても大切です。
利用者のなかには水分摂取を促してもなかなか摂ってくれない方もいるでしょう。そのような場合は、水分の多いゼリーなどをおやつに食べてもらったり好きな飲み物を飲んでもらったりすることで、水分を摂っていきます。また、身体を動かせる方なら運動をしてもらうのもおすすめです。運動をして汗をかくことで喉の渇きを感じやすくなり、積極的な水分摂取に繋がります。水分は、摂取することも大切ですが、摂取した水分を身体に保てるようにすることも大切です。身体に必要な水分を保つには、筋肉を動かして筋肉量を減らさないようにすることがポイント
となってきます。そのため「適度な運動」をすることは、水分摂取に繋がるだけでなく水分を保てる筋肉を維持させることにも繋がります。 (2)栄養ケア:普通食で1日1500kcal
食事の摂取量や必要な栄養が不足すると、寝たきりや認知症をひき起こす要因となります。また、十分な栄養を摂取できていないと体力を確保できなくなってしまい、運動や身体を動かすこともできなくなってしまいます。運動ができなくなると筋肉や関節を使う機会が減るため、筋力が落ち身体は衰えていく一方です。身体を衰えさせないためにも、しっかりと栄養を摂取し体力をつけ筋力を落とさないことが大切です。
栄養ケアでは、健康な方と同じ食事を自分でしっかりと噛んで食べ、1日1500 kcal以上の栄養を摂取することが目標とされています。噛む力や飲み込む力が衰えている方の場合、食事を柔らかい物やペースト食などに変えることもあるはず。しかし、ペースト食や柔らかい食事ばかり食べていると噛む機会が少なくなり、噛むときや飲み込むときに必要な筋力をさらに衰えさせてしまいます。そうならないためにも、まずは本人が食べられる物を食べてもらい必要カロリーを満たします。必要カロリーを満たすことで徐々に体力がつき、食べられるものも増えて「食べる意欲」が増してきます。そして、普通食を食べるための練習としてスルメや昆布などを使って「噛む練習」をしてもらいましょう。噛む練習を繰り返すことで、食べるために必要な筋力が回復し普通食を食べられるようになっていきます。また、噛む練習をすることで食べられる物が増えると、食べることに意欲的ではなかった方も食べる意欲が増していきます。 (3)運動ケア:1日2kmの歩行
自立した生活を目指すには、日々の運動は必要不可欠です。だからといって運動は無理をしてはいけません。利用者の体力に合わせて、少しずつ身体を動かし毎日の習慣にしていくことが大切です。
たとえば、寝ている時間や車いすでの移動が多い方なら「10秒だけ立ってみる」ということからスタートします。少しなら歩ける方であれば、自力で歩く機会を増やすなど「少し頑張ればできること」を日常の中に取り入れて、徐々にレベルアップしていきます。そうすることで毎日全身の筋肉を使うため体力が増えていき、起き上がったり動いたりすることが負担なくできるようになります。また歩行が安定することで、食事や入浴、トイレといった日常生活の動作は自然と自立していけます。安定して歩行ができるようになったら、散歩にでかけるなど運動ケアの目安とされている1日2㎞以上の歩行を目標としていきましょう。この距離は一度に歩く必要はなく、一日のなかでちょこちょこ休憩しながらで構いません。なぜ歩くことを目標にするのかというと、自立した生活を送るには歩く力が必ず必要になるからです。また歩くことで全身の筋力アップや体力アップができるだけでなく、脳に刺激を与えることもできるからです。脳に刺激をあたえることで、便意や尿意に対してしっかりと認識できるようになるため、抑制することに繋がり失禁を防げるようになる効果も得られます。失禁がなくなれば、睡眠の質が上がりぐっすりと眠れるため、利用者だけでなく、介護をする人の負担軽減にもつながります。利用者のなかには運動やリハビリを嫌う方もいるため、日常のなかで無理せず身体を動かし歩く機会を少しずつ増やすことで、自然と運動できるようにしていきましょう。 (4)排便ケア:3日以内の自然排便
排便のケアでは、3日以内の自然排便を目指します。利用者のなかには便秘に悩まされている方や便意に気付きにくいためオムツが必要な方は少なくありません。これまでの介護では、便秘の方であれば下剤を飲んでもらい便秘を解消させていることがほとんどでした。しかしながら、排便を下剤ばかりに頼っていると自然排便のリズムを損なってしまうことや、自力で排便する筋力を弱めてしまいます。そのため、基本的には下剤を使わずに便秘を改善していく方法を考えることが大切です。
水分が不足気味の高齢者が多いため、1日1500mlの水分を摂取するようになるだけでも便秘が改善される方はたくさんいます。それでも便秘が治らない場合は、オリゴ糖や乳酸菌などを食事にプラスしてみましょう。便意や尿意に気付きにくくオムツが必要な方は、まずは水分摂取をしっかりとおこなうことから始めましょう。体内の水分量が不足すると意識の覚醒レベルが下がってしまうため、より尿意や便意を感じにくくなってしまいます。1日に必要な水分をしっかりと摂ることで、自然に尿意や便意を感じられるようになり、オムツを必要としなくなります。また自然排便をできるようにするためには、腹圧をかけやすい姿勢をとれるようにすること、そして出なくてもトイレに行きゆっくりと排便する時間をとり、トイレの習慣を作っていくことが大事です。基本ケアの「水分・栄養・運動」をおこない習慣化することで、自然排便に必要な「十分な水分」と自力で排便するための「体力」や「筋力」が整うため、ほとんどの排便トラブルは改善していくはずです。基本ケアの「水分」「栄養」「運動」「排便」は、お互いに影響し合っているため4つすべてが揃うことでより大きな効果を得られます。この基本ケアに正しく取組み続けることで、利用者の身体や精神の状態が整い意欲や活力が高まるため、利用者自身が元気に自分らしく生活することができるようになります。 自立支援介護をおこなうメリット
自立支援介護をおこなうことで、どのようなメリットがあるのかについて見ていきましょう。自立支援介護をおこなうことで得られるメリットは以下の3つです。メリット(1)|利用者のQOL(生活の質)の向上
メリット(2)|家族の介護負担が軽減する
メリット(3)|介護度が改善する
自立支援介護をおこなうことで利用者本人が得られるメリットは、大きく分けると「利用者のQOL(生活の質)の向上」と「介護度の改善」の2つです。自立支援介護を行うことで、今までは「できなかったこと」「できなくなったこと」が再びできるようになり、さまざまなことに関して「意欲」が出てくるでしょう。好きなものを食べたり、好きな場所へ行ったり、自分の意思で行動できるようになるため、その人らしく充実した日常生活を過ごすことが可能になっていきます。また、自立支援介護をおこない効果をえることで、利用者家族の介護負担が軽減されることも大きなメリットです。利用者自身が持っている能力をできる限り維持・向上させる自立支援介護は、利用者やその家族にとって「お互いが心身ともに元気になる」介護方法といえます。 まとめ
自立支援介護は、4つの基本ケアをしっかりと丁寧におこなっていくことが重要です。
利用者の「できる能力」を一方的に奪わずに、どのくらいできるのか確認し、見守ることが自立への1歩です。今までの介護に自立支援の考えをプラスし「利用者ができること」を引き出していきましょう。業務上、手伝った方が早いと感じる場合もあるとは思います。しかし、その人の能力を維持・向上させるためにも、そこはぐっと抑えて見守り「どうすれば本人ができるようになるか」を考え改善策を見つけるようにしていきましょう。 介護の転職なら介護ワーカー!
※掲載情報は公開日あるいは2023年04月13日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。