更新日:2022年10月06日
公開日:2022年09月28日
みなさんは介護職員処遇改善加算について詳しく知っていますか?
「事務的なことは難しくて・・・」や「正しくもらえているかわからない」などと、詳しくわからない方も多いようです。
今回はみなさんが疑問に感じながら毎日を過ごさなくてすむように、基本的な事柄から最新情報にいたるまで、介護職員処遇改善加算について詳しく解説します。
また、介護職員処遇改善加算が今後についても解説していますので、ぜひ最後までお読みください。
介護職員処遇改善加算は名前のとおり介護職員の処遇を改善されるために作られた加算です。
支給対象にならない介護施設や職員がいるだけではなく、いくつかのカテゴリーに分かれているなど、複雑な仕組みの制度といえます。
まずは介護職員処遇改善加算を基本的な事柄から一つひとつ確認していきましょう。
介護職員処遇改善加算は介護職員の賃金改善を中心とする処遇改善を目的とした加算です。
平成21年から始まった介護職員処遇改善交付金を引き継ぐ形で、平成24年4月に創設された加算です。
その後は介護報酬の改定ごとに増額の方向で変更されてきました。
そのため、創設時よりも介護職員の賃金がかなり改善されてきています。
近年では、経験のある介護職員に月額平均8万円の賃金改善を目安とした介護職員等特定処遇改善加算も創設されました。
令和4年2月からは介護職員処遇改善支援補助金もスタートしています。
なお、介護施設が得た介護職員処遇改善加算は介護職員の賃金改善以外の目的では使用できないことも特徴です。
ほとんどの介護施設が介護職員処遇改善加算の対象ですが、下記の介護施設は対象ではありません。
● 訪問看護・介護予防訪問看護
● 訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーション
● 居宅療養管理指導・介護予防居宅療養管理指導
● 福祉用具貸与・介護予防福祉用具貸与
● 居宅介護支援・介護予防支援
また、原則として介護職員の賃金改善が目的の加算であるため、下記のような介護に従事しない職員は支給対象外です。
● 事務職員
● 生活相談員
● 介護支援専門員
● 栄養士
● 看護師
そのため、介護職員処遇改善加算を介護職員以外の賃金改善に使用することは不正受給です。不正受給については後ほど解説します。
介護職員処遇改善加算はⅠ・Ⅱ・Ⅲに分かれていて、加算金額も異なるため想定される介護職員一人当たり賃金改善額も下記のように異なります。
● Ⅰ:月額平均37,000円
● Ⅱ:月額平均27,000円
● Ⅲ:月額平均15,000円
加算金額が異なる理由は、ⅢからⅠへ行くにしたがって介護施設が達成しなければならない条件が厳しくなるからです。
Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの分類は、後ほど解説するキャリアパス要件(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)と職場環境等要件の組みあわせによって決まります。
介護施設が介護職員処遇改善加算を得るためには、キャリアパス要件と職場環境等要件を達成しなければなりません。
介護施設にとっては大変ですが、この2つの要件の達成は介護職員にとって大きなメリットがあります。
キャリアパス要件は下記のように3種類に分かれています。
● Ⅰ:昇進条件や賃金体系の整備
● Ⅱ:スキル・知識向上計画を作り、研修実施や研修に参加しやすくする
● Ⅲ:経験や資格などによる昇給や一定の基準にもとづく定期昇給
また、職場環境等要件とは、健康管理や業務改善の取り組みなどの賃金改善以外の処遇改善の実施です。
この2つの要件が職場で達成されることで、昇進・昇給の仕組みが明確化や介護現場での介護機器の積極的な導入が行われようになりました。
つまり、介護職員処遇改善加算によって、介護職員の賃金改善だけではなく介護施設が働きやすい職場に近づいているのです。
令和元年度に介護職員特定処遇改善加算がスタートしました。
特定処遇改善加算はより資格や経験がある介護職員を評価し、平均月額8万円の賃金改善とする制度です。
世間では「勤続10年以上のる介護福祉士」というフレーズが独り歩きしていましたが、実際は介護施設で柔軟な対応ができる仕組みになっています。
また、介護職員特定処遇改善加算のもう一つの特徴としては、事務職員や生活相談員などの介護職員以外の職種も賃金改善の対象にしてよいことです。
ただ、運用面での煩雑さのため介護職員以外の職種の賃金を改善させない介護施設も多いようです。
介護職員は介護処遇改善加算を月給やボーナスの時にあわせて支給されています。
ただ、月額に換算して37,000円をもらえていないと思う介護職員もいます。
なぜ介護職員処遇改善加算が少ないと感じるのでしょうか。
その理由を探っていきましょう。
介護処遇改善加算はどのように介護職員に支給するかは介護施設が自由に決められます。
介護施設にいる介護職員の賃金総額が増えれば、基本給やボーナス、手当など、どのような方法で支給しても構わない制度なのです。
厚生労働省では基本給による賃金改善をすすめていますが、ボーナスや一時金として支給している介護施設もあります。
また、毎年の昇給として介護処遇改善加算を使用する介護施設もあるため、介護職員が賃金水準が向上したと感じないことも当然といえます。
なお、介護施設が得た介護職員処遇改善加算で介護職員の賃金改善に使用しない分は、都道府県に返却しなければなりません。
介護職員処遇改善加算が少ないと感じるもう一つの理由に、法定福利費の介護施設負担分として使用できることがあります。
法定福利費とは健康保険料や厚生年金保険料、介護保険料などです。
法定福利費は賃金に対して一定の割合で発生するもので、施設と従業員で折半して支払っています。
ただ、介護職員処遇改善加算を使って介護職員の賃金を増やした場合は、この増額分で発生する法定福利費の介護施設負担分に同加算を充てることも認められているのです。
それほど大きな金額ではありませんが、介護職員に支給される分が減ってしことも事実といえます。
考えたくないかもしれませんが、介護職員処遇改善加算を不正に利用している介護施設があります。
この章では事例を交えながら解説します。
介護施設が介護職員処遇改善加算の利用で不正すると、介護職員処遇改善加算の一部や全部を返還しなければなりません。
悪質な場合は介護施設の事業が行えなくなる指定取消処分を受けます。
不正な利用としては下記のようなものがあります。
● 受給した介護職員処遇改善加算額分の賃金改善が行われていない
● キャリアパス要件や職場環境等要件を満たしていない
● 虚偽や不正の手段で介護職員処遇改善加算を得た
もし、勤務している介護施設が不正をして介護職員処遇改善加算がもらえなくなると、介護職員は生活自体を見直さなければならなくなります。
勤務している介護施設で気になる点があれば、遠慮しないで質問することは自分を守るためにも大切なことです。
ここで過去の介護職員処遇改善加算の不正受給事例をみてみましょう。
東京都のA事業所が令和元年度の介護職員処遇改善加算の実績報告で不正をしていました。
A事業所は介護職員以外の職員に介護職員処遇改善加算を使って賃金改善をしましたが、介護職員に対して行ったと虚偽の報告をしました。
A事業所は令和3年6月に事業を廃止したため処分されませんでした。
しかし、A事業所はその他の点でも不正があったため、監査の結果としては事業が行えなくなる指定取消処分に相当するものでした。
青森県のB事業所が介護職員処遇改善加算の実績報告で不正をしていました。
B事業所は介護職員の賃金改善額が介護職員処遇改善加算で得た額を下回っていましたが、上回ったような虚偽の報告をしました。
B事業所はその他の点でも不正があったため指定取消処分になりました。
令和4年2月に新たな補助金がスタートし、10月からはその補助金を引き継ぐ形で加算もスタートします。
介護職員処遇改善支援補助金とは、令和4年2月から9月までの介護職員の賃金改善に使用するための補助金です。
令和3年11月、政府で閣議決定された「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の一つで、コロナ禍での厳しい経済状況を踏まえて行われた特別な経済対策といえます。
介護職員一人当たり月額平均で9,000円の賃金を改善できる仕組みで、その他の特徴は施設の判断によって介護職員以外にも支給できることです。
介護職員処遇改善支援補助金は8ヶ月間の期間限定ですが、令和4年10月以降は同じ内容の仕組みで介護職員等ベースアップ等支援加算に引き継がれる予定です。
令和4年度に改定される新たな介護職員処遇改善加算は、正式には介護職員等ベースアップ等支援加算という名称です。
令和4年2月から9月までに実施される介護職員処遇改善支援補助金の内容を引き継いで実施されます。
そのため、令和4年10月以降の処遇改善関連の加算を整理すると下記のとおりです。
● 介護職員処遇改善加算:月額1.5~3.7万円
● 介護職員等特定処遇改善加算:月額平均8万円(勤続年数10年以上の介護福祉士が目安)
● 介護職員等ベースアップ等支援加算:月額平均9千円
経験を積み資格を取得した介護職員なら、処遇改善関連の加算だけでもかなり賃金になることがわかります。
介護職員処遇改善加算は、その他の処遇改善関連の加算も含めてとても充実した制度になりました。
介護職員処遇改善加算は前身にあたる介護職員処遇改善交付金がスタートしてから10年以上が経ちました。
報酬改定のたびに変更し現在も賃金改善の方向で変更が続いていますが、継続や廃止などの検討されているのでしょうか。
今後について政府や厚生労働省から明確な方針は示されていません。
ただ、介護保険制度について話しあわれる社会保障審議会介護給付費分科会に出席している委員から下記のような発言がありました。
介護人材の処遇改善については、(中略)全産業平均の水準に達するまでの継続的な取組にすべきと考えています。
参照:厚生労働省HP 令和4年1月12日 第206回 社会保障審議会介護給付費分科会(議事録)
一人の委員の発言ではありますが、分科会で上記のように発言されたことは今後の賃金改善に大きな期待が持てるといえます。
低いといわれ続けてきた介護職員の賃金が他の業種や職種と比較して変わらなくところまで来ているのです。
介護職員処遇改善加算は介護職員の賃金を確実に改善させてきました。最近では資格や経験がある介護職員が優遇される制度に変わってきています。
今後は他の業種・職種と介護職員の賃金が同じになるぐらいまで、介護職員処遇改善加算が増えていくことが予想されます。
介護職員処遇改善加算の制度が活用されることで、賃金だけではなく職場環境も改善されてきました。
介護職員処遇改善加算のおかげで、介護職員が意欲をもって仕事に取り組めています。
※掲載情報は公開日あるいは2022年10月06日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。