これから介護サービス事業者として介護老人保健施設を運営しようと考えているけれど、法律に即した施設を作るためにはどのようなことに気を付ければよいのかよくわからないと悩んでいる人はいませんか?
この記事では介護老人保健施設を規定する法律について詳しく解説します。
介護老人保健施設とは?
介護老人保健施設とは「老健」とも呼ばれ、要介護者が自宅で生活できるようになることを目標とし、施設サービス計画に基づいて必要な医療、看護、リハビリ、介護を受けることができます。
そのため自宅生活への復帰や自宅療養を支援するための地域の拠点としての役割と、リハビリを提供し要介護者の機能維持・改善に取り組むための役割を併せ持つ施設なのが特徴的だと言えるでしょう。
介護老人保健施設の目的
介護老人保健施設の目的は、介護保険法に基づいて要介護認定を受けた被保険者が、心身の機能回復を計り、自宅での生活ができるようになるための支援を行うことです。具体的には施設サービス計画に基づいて医療、看護、医学的な管理の基に行われる介護、リハビリなどのサービスを受けられます。2016年に厚生労働省が行った「平成28年介護サービス施設・事業所調査」によると、2016年9月中に介護老人保健施設を退所した人の行き先は「医療機関」が36.6%、「家庭」が33.1%という結果でした。また平均在所日数は299.9日だったため、介護老人保健施設で平均10か月ほどリハビリに取り組むことで、自宅で生活できるようになる人が3割ほどいる現状がうかがえます。参考:厚生労働省「平成28年介護サービス施設・事業所調査の概況」 介護老人保健施設の対象者
介護老人保健施設に入所できる対象者は、介護保険法における要介護認定を受けた被保険者のうち、要介護1、要介護2、要介護3、要介護4、要介護5と認定された人です。
2017年に厚生労働省が行った「平成29年介護サービス施設・事業所調査」によると介護老人保健施設の要介護度別在所者数の年次推移は次の通りでした。
| 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護4 | 要介護5 | 平均要介護度 |
2013年 | 10.1% | 18.1% | 23.9% | 27.0% | 20.7% | 3.30 |
2014年 | 10.5% | 18.2% | 23.9% | 27.0% | 20.0% | 3.28 |
2015年 | 10.8% | 18.4% | 24.2% | 26.9% | 19.4% | 3.26 |
2016年 | 11.3% | 18.6% | 24.1% | 26.8% | 18.7% | 3.23 |
2017年 | 11.5% | 18.9% | 24.3% | 26.7% | 18.2% | 3.21 |
介護老人保健施設の法律上の位置づけとは?
介護老人保健施設は介護保険法の第8条第28項において、施設サービス計画に基づいて医療、看護、医学的な管理の基に行われる介護、リハビリを受けられる施設とされているだけではなく、第94条第1項で都道府県知事の許可を受けたものと位置づけられています。つまり介護老人保健施設の運営主体となる事業者は、介護老人保健施設を開設する際に都道府県令に基づいて都道府県知事の許可を得なければならないのです。またこの開設許可は6年ごとに更新しなければならないため注意しましょう。具体的な事務手続きについては、各都道府県のホームページで確認することをおすすめします。参考:e-GOV法令検索「介護保険法」参考:東京都保健福祉局「介護老人保健施設の開設許可に係るお手続きについて」 介護保険法が介護老人保健施設について定める内容
介護保険法が介護老人保健施設について定めているのは具体的にどのような内容でしょうか。
4つご紹介します。
介護老人保健施設における人員基準
介護老人保健施設における人員基準は、介護保険法の規定に基づいた厚生省令の「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」の第2条で次のように定められています。
職種 | 人員基準(入居者100人あたりの人数) |
医師 | 常勤で1人以上 |
薬剤師 | 実情に合わせた数 |
看護職員と介護職員 | 入所者1人について3人以上(看護職員は2/7、介護職員は5/7の程度の割合) |
支援相談員 | 常勤で1人以上(入居者100人に対し1人以上) |
理学療法士、作業療法士または言語聴覚士 | 入居者100人に対し1人以上 |
栄養士または管理栄養士 | 入居者の定員が100人以上の施設に対して1人以上 |
ケアマネージャー | 1人以上(入居者100人に対し1人以上) |
調理員、事務員、その他の従業員 | 実情に合わせた数 |
介護老人保健施設における施設基準
介護老人保健施設における施設基準は、介護保険法の規定に基づいた厚生省令の「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」の第3条で次のように定められています。
設置する必要のある施設 | 設置基準 |
療養室 | ・定員4人以下 ・入所者1人あたりの床面積が8m2以上 |
診察室 | ー |
機能訓練室 | ・定員数×1m2以上の面積 ・必要な器械や器具を備える |
談話室 | ・入所者同士や入所者と家族が談話を楽しめる広さとする |
食堂 | ・定員数×2m2以上の面積 |
浴室 | ・一般浴槽と入浴介助が必要な入所者向けの特別浴槽を設置する |
レクリエーション・ルーム | ・レクリエーションを行うために十分な広さで、必要な設備を備える |
洗面所 | ・療養室のある階ごとに設置する |
便所 | ・療養室のある階ごとに設置する ・ブザーなどを設置し身体の不自由な入居者が使用できるようにする ・常夜灯をつける |
サービス・ステーション | ー |
調理室 | ー |
洗濯室または洗濯場 | ー |
汚物処理室 | ー |
またユニット型介護老人保健施設における施設基準は、介護保険法の規定に基づいた厚生省令の「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」の第41条で次のように定められています。
設置する必要のある施設 | 設置基準 |
ユニット | ・療養室の定員1人 ・1ユニットの入居定員は原則10人以下で15名を超えない ・療養室の床面積は10.65m2以上 ・共同生活室はいずれかのユニットに属する ・共同生活室の面積は1ユニットの入居定員×2m2以上 ・共同生活室は必要な設備や備品を備える ・洗面所と便所は療養室ごとか共同生活室ごとに設ける ・洗面所は身体の不自由な入居者が使用できるようにする ・便所はブザーなどを設置し身体の不自由な入居者が使用できるようにする ・便所は常夜灯をつける |
診察室 | ー |
機能訓練室 | ・定員数×1m2以上の面積 ・必要な器械や器具を備える |
浴室 | ・一般浴槽と入浴介助が必要な入所者向けの特別浴槽を設置する |
サービス・ステーション | ー |
調理室 | ー |
洗濯室または洗濯場 | ー |
汚物処理室 | ー |
介護老人保健施設における構造設備基準
介護老人保健施設とユニット型介護老人保健施設における構造設備基準は、介護保険法の規定に基づいた厚生省令の「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」の第4条で次のように定められています。
規定された構造設備 | 構造設備基準 |
建物 | ・耐火建築物とする |
療養室 | ・2階以上に療養室がある場合、屋内の直通階段とエレベーターをそれぞれ1つ以上設置する ・3階以上に療養室等がある場合、避難階段を2つ以上設置する |
階段 | ・手すりを設置する |
廊下 | ・廊下の幅は1.8m以上とし、中廊下の場合は2.7m以上とする ・手すりを設置する ・常夜灯をつける |
消火設備やその他の非常災害用設備 | ・設置する |
介護老人保健施設におけるサービスを適切に提供するためだけではなく、火災や災害にも対応できる構造設備を備えることが大切だと言えるでしょう。
介護老人保健施設における介護報酬
介護老人保健施設における介護報酬は、感染症や災害への対応力強化や高齢化を見据えて2021年に改訂が行われました。
介護報酬は介護サービスの項目ごとに指定された単位数に、地域によって物価や人件費に違いがあるため異なる単価をかけて算定されますが、介護老人保健施設における基本報酬の単位数が改訂されたのです。
基本報酬とは入居者の要介護度・在宅復帰率などに応じた基本サービス費のことを指しますが、在宅強化型の場合在宅復帰率が50%を超える、ベッド回転率が10%以上などの条件があります。
改訂内容は次の通りです。
| 介護老人保健施設・ 多床室・基本型 | 介護老人保健施設・多床室・ 在宅強化型 | ユニット型介護老人保健施設・ ユニット型個室・基本型 | ユニット型介護老人保健施設・ ユニット型個室・在宅強化型
|
要介護1 | 788単位 | 836単位 | 796単位 | 841単位 |
要介護2 | 836単位 | 910単位 | 841単位 | 915単位 |
要介護3 | 898単位 | 974単位 | 903単位 | 978単位 |
要介護4 | 949単位 | 1,030単位 | 956単位 | 1,035単位 |
要介護5 | 1,003単位 | 1,085単位 | 1,009単位 | 1,090単位 |
介護老人保健施設と医療
介護保険法の第106条では、介護老人保健施設について医療法による病院や診療所ではないと定めています。
しかし、高齢化が進むにつれ介護老人保健施設においても更に医療との連携を図る必要が出てきていると言えるでしょう。
介護老人保健施設における医療の役割を考えるにあたって、介護老人保健施設における医療の現状と2021年度に行われた介護報酬の改訂内容についてそれぞれご紹介します。
介護老人保健施設における医療の現状
2018年に厚生労働省が行った「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」によると、介護老人保健施設への入所時の主たる病名が「認知症」の人は26.9%、「脳卒中」の人は20.9%、「筋骨格系の病気」の人は11.8%という結果でした。また認知症が主たる病名の人で副傷病が「高血圧」の人は21.5%、「脳卒中」の人は13.3%だったのです。介護老人保健施設に入所後も、リハビリと並行して病気の治療を行わなければならない人が多数存在するため、医療との連携が重要であることがわかります。参考:厚生労働省「平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査」 2021年度に行われた介護報酬の改訂について
2021年度に行われた介護報酬の改訂においては、次の5つを目標として改定率が+0.70%となりました。
・感染症や災害への対応強化
・地域包括ケアシステムの推進
・自立支援、重度化防止の取り組みの推進
・介護人材の確保、介護現場の革新
・制度の安定性、持続可能性の確保
地域包括ケアシステムの促進においては医療と介護の連携の推進が掲げられ、その中には介護老人保健施設への医療ニーズへの対応強化も含まれているのです。
このため2021年度の介護報酬改訂では介護老人保健施設を対象に、高齢者の薬物療法に関する研修を受講した医師が行うことのできるかかりつけ医連携薬剤調整加算の見直しが行われました。
加算の種類 | 算定要件 | 単位数 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ) | ・入所者の入所後1ヵ月以内にかかりつけ医に処方内容の変更の可能性について説明し合意を得ている ・入所時と退所時で処方内容に変更があった場合かかりつけ医に情報提供し診療記録に記載している | 100単位 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ) | ・かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅰ)の算定要件を満たしている ・入所者の服薬情報などを厚生労働省に提出し処方にあたってその情報や薬物療法の情報活用をしている | 240単位 |
かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅲ) | ・かかりつけ医連携薬剤調整加算(Ⅱ)の算定要件を満たしている ・6種類以上の内服薬が処方されている場合、かかりつけ医と連携して入所時に処方されていた内服薬の種類を1種類以上減らす ・退所時に処方されている内服薬の種類が、入所時より1種類以上減っている | 100単位 |
まとめ
介護老人保健施設においては、その位置づけから目的、対象者、人員基準から報酬の基準まで細やかに法律によって定められているとわかります。
立ち上げ後も法律を順守し、適切な形で介護老人保健施設を運営することを心掛けましょう。