更新日:2022年12月19日
公開日:2022年12月07日
みなさんは産業ケアマネジャーをご存じですか?
ケアマネジャー(介護支援専門員)の仕事内容は知っていても、産業ケアマネジャーという資格名すら知らない方が多いかもしれません。
今回は、ひそかに注目を集めている産業ケアマネジャーについて詳しく解説します。
産業ケアマネジャーはケアマネジャーの新たなキャリアアップ候補の一つです。
ケアマネジャーとしての新しい働き方を模索している方は、ぜひ最後までお読みください。
産業ケアマネジャーは近年の介護離職を解決するために誕生した資格です。
一般的なケアマネジャーとはサービスを提供する対象者や活躍場所が異なります。
産業ケアマネジャーの主な仕事は一般的な会社内での介護の相談対応です。
具体的には次のような業務が想定されます。
● 介護で悩む従業員からの相談対応
● 人事部と相談対応した従業員の情報共有
● 介護支援プランの作成補助
一般的の会社では上司や人事部が職員から介護の相談をされても、的確なアドバイスや援助は難しいでしょう。
そのような場面で活躍するのが産業ケアマネジャーの役割です。
介護休業といった公的制度と介護の知識の両輪で的確にアドバイスします。
なお、介護支援プランとは、厚生労働省が提唱している介護で悩む職員に使用する支援計画書です。
産業ケアマネジャーが誕生した社会的背景は介護離職者の増加です。
平成29年の1年間で約9.9万人の方が、介護が原因で会社を辞めました。
参照: 平成29 年就業構造基本調査
介護休暇や介護休業などの公的制度は整備されていますが、ほとんど利用されていない現状があります。
職員の離職は会社にとって人的資源の損失であり、何とかして防ぎたいと会社は考えています。
また、キャリアを築いてきた慣れた職場を不本意な理由で退職することは、職員自身も望んでいないはずです。
しかし、前述のように介護の知識を持ちあわせていない一般的な会社の上司や人事部司は、相談されても介護保険サービスや社会資源について助言すらできません。
つまり、産業ケアマネジャーは介護離職という会社と職員双方にとっての問題を防げる唯一の存在なのです。
産業ケアマネジャーとケアマネジャーはサービスの提供対象が異なります。
それぞれのサービスの主な提供対象は次のとおりです。
● 産業ケアマネジャー:家族の介護で悩む会社の職員
● ケアマネジャー:介護保険サービスを利用する要支援・要介護の高齢者・その家族
ケアマネジャーは介護サービスを利用する高齢者の家族の一般的な相談なら対応できます。
しかし、介護休業といった公的制度や職場の制度まで理解してはいないため、職場での仕事継続に対する的確なアドバイスは難しいかもしれません。
一方、産業ケアマネジャーは公的制度だけではなく職場の制度も熟知しているため、的確なアドバイスが期待できます。
産業ケアマネジャーになる方法は次の2つです。
● 産業ケアマネの資格を取得し産業ケアマネジャーになる
● 会社所属の産業ケアマネジャーになる
一つひとつみていきましょう。
産業ケアマネジャーの資格には、一般社団法人日本単独居宅介護支援事業所協会ケアマネジャーを紡ぐ会主催の「産業ケアマネ」があります。
2020年の第1回試験で3級の試験を実施しました。3級の試験の受験資格や実施時間などは次のとおりです。
受験の条件 | 介護支援専門員資格を有する者その他保有資格・年齢・実務経験は不問 |
試験形式 | ○×式 |
試験時間 | 60分 |
問題数 | 50問 |
引用:一般社団法人日本単独居宅介護支援事業所協会ケアマネジャーを紡ぐ会
1級・2級試験も実施予定ですが2022年8月の時点では実施されていません。
なお、ケアマネジャーを紡ぐ会が実施している産業ケアマネジャーの資格試験の正式名称は「産業ケアマネ」です。
前述の「産業ケアマネ」はあくまでも資格であり、取得することで産業ケアマネジャーとして仕事に携われるわけではありません。
一方、介護事業会社の職種としての産業ケアマネジャーになれば、仕事として家族の介護で悩む方への相談対応ができます。
事例としてはあまりありませんが、事業の一環として産業ケアマネジャーによる相談サービスを実施している介護事業会社があります。
介護事業会社と契約した一般の会社に産業ケアマネジャーが行き、家族の介護で悩む職員にアドバイスをするのです。
ただ、なりたいからといって誰でもなれるわけではありません。
介護事業会社の東京海上日動ベターライフサービス株式会社の事例では、2016年に同社独自で産業ケアマネジャーの認定制度を構築しました。
同社の産業ケアマネジャーになるための条件は次のとおりです。
● 認定ケアマネジャー・主任介護支援専門員のどちらの資格保持者
● 同社で行う研修の修了
参照:東京海上日動ベターライフサービス株式会社
難しい条件ですが認定されれば産業ケアマネジャーとしての仕事ができます。
産業ケアマネジャーはケアマネジャーの新たなキャリアアップの方法といえます。
なぜなら、今までのキャリアアップとは明らかに異なるからです。
ケアマネジャーの一般的なキャリアアップとしては次のようなものがあります。
資格
● 認定ケアマネジャー
● 主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)
● 社会福祉士
職種
● 居宅介護支援事業所の管理者(独立を含む)
● 会社の役職者
● 地域包括支援センターの職員
上記の資格・職種の主なサービスの提供対象者は利用者本人です。
一方、会社の職員が主なサービスの提供対象者である産業ケアマネジャーは、上記の資格や職種と比較すると異分野へのキャリアアップといえます。
ケアマネジャーとしての経験を異分野で生かしたい方や新たな挑戦をしたい方には適した資格・職種です。
ここまで産業ケアマネジャーについて様々な角度から解説してきました。
この章ではメリット・デメリットの視点から解説します。
産業ケアマネジャーのメリットは新たな挑戦ができることです。
なぜなら、産業ケアマネジャーは一般的なケアマネジャーと異なり、一般の会社でサービスを提供するからです。
産業ケアマネジャーはケアマネジャーとしての経験を生かして、一般の会社内で活躍できます。
産業ケアマネジャーの活躍により、ケアマネジャーでは取り組むことすらできなかった介護離職問題を解決できるのです。
介護の視野をさらに広げたいケアマネジャーにはおすすめできる資格・職種といえます。
産業ケアマネジャーのデメリットは働き方が確立されていないことです。
なぜなら、社会的に認知されていないことや、一般的な会社向けの介護ソリューションサービスを提供する会社が少ないからです。
産業ケアマネジャーの現在の業務形態は、「介護事業会社に所属し一般的な会社に介護相談サービスを提供する」の一つだけといえます。
ケアマネジャーを紡ぐ会の産業ケアマネ資格は2020年、東京海上日動ベターライフサービス株式会社の社内資格制度も2016年に始まったばかりです。
求人もみかけません。
産業ケアマネジャーが社会に浸透するためにはもう少し時間が必要といえます。
ただ、介護離職を防ぐという社会的意義のある資格のため、働き方が確立されるのも速いかもしれません。
産業ケアマネジャーの仕事は、今までのケアマネジャーとは異なったスタイルの仕事といえます。
課題としては資格や職種が新しいため、現時点では産業ケアマネジャーの仕事をしたくてもできないことです。
ただ、産業ケアマネジャーになれば確実に介護離職問題に取り組めます。
介護と介護休暇・休職制度の知識が産業ケアマネジャーであるからこそ取り組める社会問題です。
産業ケアマネジャーの活躍が新たな介護福祉サービスを構築し、福祉人材の活躍の場が広がっていくでしょう。
※掲載情報は公開日あるいは2022年12月19日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。