更新日:2023年01月31日
公開日:2023年01月25日
勤務している介護施設でレクリエーション担当となったため、年間の壁面装飾を計画してみたものの、高齢者に喜んでいただけるか、成功させられるかが不安で仕方ないという人はいませんか?
この記事では介護施設で壁面装飾のレクリエーションを行うメリットから、月別の制作アイデアまで詳しくご紹介します。
介護施設では高齢者のQOL(生活の質)を高めることを目的にさまざまなレクリエーションが行われますが、介護におけるレクリエーションは次の3種類に分類することができます。
介護レクリエーションの種類 | 概要 |
集団レクリエーション | ・集団で行うレクリエーションで仲間同士のコミュニケーションを深めることを目的とし、従来最も良く介護施設で行われてきた |
個別レクリエーション | ・高齢者の個別の趣味嗜好や要介護度の違いに配慮したレクリエーションで、個人のQOL向上や介護予防を目的とし、近年よく行われるようになった |
基礎生活レクリエーション | ・高齢者が心地よく過ごすことを目的に排泄、入浴、食事などの間に行われるレクリエーション |
例えば同じ壁面装飾のレクリエーションでも、目的が同じ施設で過ごす高齢者同士のコミュニケーション促進なら集団レクリエーション、指先を動かすことによる介護予防なら個別レクリエーションに分類されるということです。
これらのことから介護施設において壁面装飾をレクリエーションとして企画する際は、まずその目的をはっきりさせることが大切です。
参考:一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会「レクリエーション介護士2級 公式テキスト」
介護施設で壁面飾りのレクリエーションを行うことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
2011年に発表された「認知症高齢者に対する『絵画療法プラン』の実践と評価」という論文では、グループホーム入居している65才以上の認知症高齢者5名を対象に週1回、60分程度の絵画療法を合計12回行い、効果を測定しました。
その結果、2名の人に認知症の周辺症状における精神症状と行動障害の改善が見られたのです。
また2006年に発表された「認知症の芸術療法」という論文では、施設に入居している平均年齢82.5才のアルツハイマー病と脳血管性認知症の男女37名を対象に週1回、2時間程度の描画中心の芸術療法を行い、効果を測定しました。
その結果、1名の高齢者においては抑うつ、自発性の欠如、介護拒否が大きく改善され、他13名の高齢者においても周辺症状の改善が見られたのです。
このことから介護施設で認知症の高齢者を対象に壁面装飾のレクリエーションを行うと、認知症の周辺症状を軽減できる可能性が高いと言えるでしょう。
参考:川久保悦子 内田陽子 小泉美佐子「認知症高齢者に対する『絵画療法プラン』の実践と評価」
参考:今井真理「認知症の芸術療法」
介護施設でレクリエーションの計画をする際は、月間や年間の計画もする必要がありますが、壁面装飾は季節や月ごとにその内容を変え、年間を通じてレクリエーションの1つとして取り入れることができます。
七夕、クリスマスパーティーなど施設全体で行う行事と関連した内容で作成し、イベントを盛り上げるのに役立ててもよいでしょう。
参考:一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会「レクリエーション介護士2級 公式テキスト」
介護施設において一年中使える壁面装飾を、高齢者自身が季節に合わせて定期的に作り続けることは、施設に愛着を持ってもらえることにつながります。
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」という仮定に基づき人間の欲求を5段階の階層で理論化したものを心理学ではマズローの5段階欲求と呼びますが、3つめの欲求に「所属と愛の欲求」が存在します。
所属と愛の欲求とは何らかの社会的集団に属して安心感を得たいという欲求のことを指しますが、自分で作った壁面装飾で施設の壁が彩られるというのは、高齢者にとっては施設に所属しているという感覚を持ってもらうことにつながり、この欲求を満たすことができるのです。
介護施設で壁面装飾のレクリエーションを行う際は、どのようなポイントに気を付ければよいのでしょうか。
3つご紹介します。
介護施設で行う全てのレクリエーションに共通することですが、安全に配慮することが大切です。
壁面装飾を安全・安心な環境で楽しく継続できるレクリエーションとするためには、次の5つの項目に留意するようにしましょう。
・レクリエーションを実施する前にスタッフ全員に参加者の人数や心身情報を共有し1人あたりで対応できる人数を定める
・スタッフの役割分担と会場の環境を事前に確認しておく
・高齢者個人のペースを尊重する
・高齢者が活動する際は正しい姿勢を保持し身体に負担のかかる動作を避ける
・活動の際高齢者が普段と異なる様子がないか観察を怠らないようにする
高齢者にレクリエーションで楽しい時間を過ごしてもらうためには、スタッフ全員が連携して事故やけがを防止することが重要なのです。
高齢者を壁面装飾のレクリエーションにお誘いしたとしても、今は参加する気になれないという人が一定数出て来ると予想されます。
また誘われたから仕方なく参加し、レクリエーションの場でつまらなそうなそぶりを見せる人もいるかもしれません。
このような場合でも、レクリエーションの主役は高齢者であることを意識し本人の意志に寄り添って、目標達成のために一方的な押しつけをしたり、参加を強制したりするのは避けましょう。
介護施設でのレクリエーションを提供するスタッフがその場で別の業務のことばかり考えていたり、コミュニケーションがうわの空だったりすると、高齢者はそのことを敏感に見抜いてしまいます。
レクリエーションを実行する際は、スタッフも一緒になって楽しむ姿勢を高齢者に見せることで、レクリエーションの効果が高まり、次のレクリエーションの開催にもつなげやすくなることを覚えておきましょう。
参考:一般社団法人 日本アクティブコミュニティ協会「レクリエーション介護士2級 公式テキスト」
高齢者と一緒に作る壁面飾りの具体的なアイデアを、日本においては気象庁が3~5月が春、6月~8月が夏、9月~11月が秋、12月~2月が冬と定めているのを踏まえて、月別にご紹介します。
参考:国土交通省 気象庁「時に関する用語」
高齢者と一緒に作る壁面飾りで1月におすすめなのは、折り紙で作る干支の飾りです。
折り紙やそれを貼り付ける画用紙や模造紙は100円ショップでも調達できるため材料費が節約でき、折り方もYouTubeにたくさん参考動画があるので、より簡単な作成方法を選ぶことができます。
最初にアイスブレイクで「今年の干支は何でしょう?」と質問し、高齢者の方に考えていただいてから作業に入るのもよいでしょう。
介護施設の壁面装飾で2月におすすめなのは、折り紙で作る鬼とお多福の飾りです。
アイスブレイクで、節分の由来や鬼と福の神について少し話をすると、作業に親しみを取って取り組んでもらいやすくなるでしょう。
また作業しながら高齢者に出身地ではどんな豆を巻いたか、また行事食として何を食べたかなどをたずねてみると相手をより深く知るきっかけを作ることができます。
介護施設の壁面飾りで3月におすすめなのは、ひな祭りの飾りです。
季節が冬から春に変わるタイミングなので少し大がかりな内容とし、ひな祭りのイベントの準備として行いましょう。
具体的にはひな人形、ぼんぼり、菱餅、ひなあられなどを折り紙や千代紙を用いて作り、大きめの模造紙などに貼り付けると華やかな雰囲気となります。
ひな祭りのイベント当日は壁からイベント会場に飾りを移動し、みんなで鑑賞するのもよいでしょう。
高齢者と一緒に作る壁面飾りで4月におすすめなのは、手形スタンプで作る桜の木の飾りです。
少しずつ色合いの異なるピンクの絵の具をあらかじめ準備しておき、大きな模造紙に全員が順番に手形を押していってもらいます。
手形を押した後に各自手を洗っていただく場所への誘導や、認知症の症状で異食がある人への見守りなどが必要となるため、参加者の人数に応じてスタッフの数も増やす必要がありますが、出来上がる作品は春にふさわしい迫力のあるものとなるでしょう。
完成後は壁面だけでなく施設の玄関などにも一定期間展示すると、面会に足を運ぶ家族の方々の目も楽しませることができます。
介護施設の壁面飾りで5月におすすめなのは、お花紙で作る藤の花の飾りです。
お花紙は薄くて柔らかい素材でできているため、高齢者にとっては扱いやすいと言えるでしょう。
藤は花の見ごろが4月中旬~5月上旬で春をイメージすることができる花でありながら、紫色であるため前月の桜とは大きく壁面の雰囲気を変えることができます。
介護施設の壁面装飾で6月におすすめなのは、てるてる坊主の飾りです。
ティッシュペーパーから布までさまざまな素材を選んで作ることができるので、それぞれがオリジナリティのある作品を仕上げることができるでしょう。
また立体なので、飾った時に見栄えのする壁面飾りとなります。
高齢者と一緒に作る壁面飾りで7月におすすめなのは、七夕の夜空の壁面飾りです。
輪飾りで天の川を表現したり、折り紙で彦星や織姫を作ったりと、いろいろなアイデアを盛り込むことができます。
大きめの模造紙に貼り付けて鑑賞し、お茶を飲みながら全員で作った感想などを話し合うのも良い試みです。
高齢者と一緒に作る壁面飾りで8月におすすめなのは、花火の壁面飾りです。
黒い画用紙に折り紙や千代紙などさまざまな紙や毛糸などを貼り付け、1つの大きな花火をみんなで作ってみると、チームワークが少しずつ生まれてくるでしょう。
作りながら昔見た花火大会の思い出話などをたずねてみると、高齢者の人をより深く理解することにもつながります。
介護施設の壁面飾りで9月におすすめなのは、鶴と亀の壁面飾りです。
9月には敬老の日があるため、お祝いの雰囲気や縁起の良さに配慮するのが望ましいと言えるでしょう。
鶴も亀も少し高級感のある千代紙で折ると、よりお祝いにふさわしい華やかな雰囲気となります。
介護施設の壁面飾りで10月におすすめなのは、折り紙で作る紅葉の飾りです。
折り紙は赤を中心に緑、黄色なども選べるようにし、紅葉の切り方も何種類か準備しておくとよいでしょう。
紅葉の見ごろは10月中旬~11月初旬なので季節感を出すことができ、施設でより秋らしい雰囲気を楽しむことができます。
高齢者と一緒に作る壁面飾りで11月におすすめなのは、折り紙で作るコスモスのリースです。
コスモスの花を作った後、それを丸く切った折り紙に貼り付けリースにして壁に飾るのです。
たくさん作ったら壁だけではなく、ドアなどに飾っても楽しめるでしょう。
介護施設の壁面装飾で12月におすすめなのは、雪の結晶の切り絵です。
作り方次第でさまざまな種類の結晶が出来上がるため、個別に好きな色の紙や形を選んで作成してもらうとよいでしょう。
また、手先の器用な人には立体で作ってもらうと壁に貼った時に見栄えのする作品に仕上がり、クリスマスツリーに飾ることもできます。
介護施設において壁面装飾をレクリエーションとして企画する際は、目的をはっきりさせ安全に配慮しながらも、スタッフ全員が高齢者の方々と共に楽しむ姿勢が大切だと言えるでしょう。
壁面装飾のレクリエーションを行うことで、認知症の周辺症状を軽減できたり、施設に愛着を持ってもらえたりとさまざまなメリットがあります。
ぜひ壁面装飾のレクリエーションを行うポイントや壁面飾りの月別アイデアを参考にして、自分の施設に合った形でレクリエーションを企画、実行してみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2023年01月31日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。