更新日:2023年03月30日
公開日:2023年03月23日
家族が体調を崩して以来、自分が主となって介護を続けてきているけれど、このままではストレスで高齢者虐待を引き起こしかねないと悩んでいる人はいませんか?
この記事では前向きに介護に取り組むために利用したい介護サービスから、覚えておきたい心理学の知識まで詳しく解説します。
前向きに介護ができる条件とは、次の3つです。
・身体が健康である
・心が健康である
・適切な介護スキルが身に着いている
前向きに介護をするためには適切な介護スキルが必要だとわかるけれど、そもそも身体と心の健康とは何だろうと感じる人もいるでしょう。
まず身体の健康ですが、1947年に採択されたWHO憲章では健康を「健康とは、病気ではないまたは弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが満たされた状態にあることをいいます」と定義づけています。
この定義は時代や環境に合わせて変化していくものではありますが、前向きに介護をする上で必要な健康の内容を過不足なく表現していると言えるでしょう。
次に心の健康ですが、厚生労働省では心の健康は次の4つの要素から成り立ち、QOL(生活の質)に大きな影響を与えるとしています。
項目 | 概要 |
情緒的健康 | 自分の感情に気づいて表現できること |
知的健康 | 状況に応じて適切に考え、現実的な課題解決ができること |
社会的健康 | 他人や社会と建設的でよい関係を築けること |
人間的健康 | 人生の目的や意義を見出し、主体的に人生を選択すること |
介護においては要介護者との信頼関係の構築、状況に応じた適切な課題解決などが求められるため、前向きに介護をするためには心の健康を維持するのも重要だとわかります。
参考:公益社団法人日本WHO協会「健康の定義」
参考:厚生労働省「休養・こころの健康」
「前向きに介護」で検索すると、テーマに基づいた記事だけではなくたくさんの経験談も出てきますが、前向きに介護ができる方法がなぜこのように注目を集めているのでしょうか。
3つご紹介します。
前向きに介護ができる方法が注目される背景の1つに、高齢者虐待の増加があります。
2021年に厚生労働省が発表した、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく2021年度の対応状況等に関する調査結果では高齢者に対する虐待の状況が次のような結果となりました。
2006年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2021年 | ||
介護職員による | 相談・通報件数 | 273件 | 506件 | 1,640件 | 2,097件 | 2,390件 |
虐待と判断された件数 | 54件 | 96件 | 408件 | 595件 | 739件 | |
介護者(家族、親族、同居人)による | 相談・通報件数 | 18,390件 | 25,315件 | 26,688件 | 35,774件 | 36,378件 |
虐待と判断された件数 | 12,569件 | 16,668件 | 15,976件 | 17,281件 | 16,426件 |
15年間で介護職員による虐待は13.6倍、家族などの介護者による虐待は1.3倍に増加していることから、介護に携わる人が高齢者虐待を身近な出来事として捉えるようになってきているのは間違いないでしょう。
参考:厚生労働省「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」
前向きに介護をする方法が注目される背景には、老老介護や認認介護の増加もあります。
例えば老老介護ですが、2019年に厚生労働省が行った国民生活基礎調査の結果によると、要介護者と同居の主な介護者の年齢組み合わせ別の割合は次の通りでした。
2013年 | 2016年 | 2019年 | |
60歳以上同士 | 69.0% | 70.3% | 74.2% |
65才以上同士 | 51.2% | 54.7% | 59.7% |
75才以上同士 | 29.0% | 30.2% | 33.1% |
また、同居している介護者の介護時間の構成割合は、要介護度別に見ると次のような結果だったのです。
要支援1 | 要支援2 | 要介護1 | 要介護2 | 要介護3 | 要介護5 | 要介護6 | |
ほとんど終日 | 3.9% | 7.3% | 11.3% | 15.7% | 32.5% | 45.8% | 56.7% |
半日程度 | 3.6% | 4.7% | 7.5% | 12.2% | 17.6% | 8.6% | 12.8% |
2~3時間程度 | 2.5% | 6.8% | 13.1% | 15.8% | 13.1% | 21.7% | 7.9% |
必要な時に手を貸す程度 | 71.1% | 64.7% | 61.2% | 50.2% | 27.7% | 11.5% | 3.0% |
老老介護や認認介護が年々増加していく中で、要介護度が増加していくほど自分の時間がなくなり、追い詰められた気持ちになっていく介護者の様子が伺える数値だと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」
前向きに介護をする方法が注目されるのは、親の介護は自分ですると考える人が多いためでもあります。
2019年8月にアクサ生命が発表した「介護に関する親と子の意識調査2019」において、40代・50代の親の介護経験がない人250人を対象に介護の担い手についてたずねた所、「自分自身」と回答した人が57.2%、「介護サービスの職員」と回答した人が36.0%でした。
一方60代・70代の人500人に自分が要介護状態となったら誰に介護をしてほしいかたずねた所、「介護サービスの職員」と回答した人が49.6%、「配偶者」と回答した人が41.2%でした。
これらのことから介護経験や介護を受けた経験のない人たちが、いきなり親や配偶者の介護を担うことになるとなかなか介護サービスを利用することができず、前向きに介護をするにはどうすればよいかと悩んでしまう姿が伺えます。
参考:アクサ生命プレスリリース2019年8月9日「アクサ生命、『介護に関する親と子の意識調査2019』を発表」
前向きに介護ができる条件として身体の健康と心の健康がありますが、これらを守るために利用したいのが介護サービスです。
介護サービスには介護保険が適用される介護保健サービスと、介護保険が適用されない介護保険外サービスがありますが、この中から1つずつ、前向きに介護をするために取り入れたいサービスをご紹介します。
レスパイトケアとは介護者が一時的に介護から離れ、休息をしてリフレッシュを図るために行われる介護サービスのことで、英語で小休止や息抜きといった意味を持つ「Respite」から名付けられました。
2021年3月に一般社団法人日本ケアラー連盟が発表した「ケアラーと新型コロナウイルス感染症(COVID-19)緊急アンケート調査報告書」で、介護者378人に対し新型コロナウイルスによるケア時間の変化についてたずねた所、「特に変化なし」が56.8%、「今までより長くなった」が39.0%でした。
また介護状況の変化については、「介護による自身の疲労、ストレスが増している」が 36.5%で最も多いという結果だったのです。
このことから、介護時間が長くなるほど介護者の疲労やストレスが増加する傾向にあるのがわかります。
要介護者、介護者の共倒れを防ぐためにもレスパイトケアを適切に取り入れることが重要ですが、介護保険サービスを用いて行うことのできるレスパイトケアは次の3つです。
・訪問介護(ホームヘルプ)
・通所介護(デイサービス)
・短期入所生活介護(ショートステイ)
また医療保険を用いて行うことのできるレスパイトケアには、レスパイト入院があります。
前向きに介護をするためにも、介護保険サービスや医療保険を積極的に活用し、レスパイトケアを行うようにしましょう。
参考:一般社団法人日本ケアラー連盟「介護をしている人、介護者を気遣う人に関する調査研究事業」
配食サービスは介護保険外サービスの1つで、厚生労働省の「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」において、次のように定義づけられています。
・特定で多数の地域高齢者などに対し、主に自宅用として、主食、主菜、副菜の組合せを基本(主食なしのものを含む)とする、1食分を単位とした調理済みの食事(冷凍食品、チルド食品などを含む)を継続的に宅配するサービス
配食サービスを利用するメリットは次の3つです。
・介護者の買い物や調理の手間を省ける
・高齢者が栄養バランスの良い食事を取れる
・業者によっては安否確認もしてもらえる
介護保険外サービスのため、介護保険が適用されず1食ごとに実費を支払う必要はありますが、業者によっては1日1回、1食から宅配を受け付けてくれるため、介護者が食事を作るのに疲れてしまった時に利用しやすいのが大きなメリットだと言えるでしょう。
地域にどのような配食サービス事業者があるのか知りたい場合は、厚生労働省の「介護事業所・生活関連情報検索」から調べることができます。
前向きに介護をするためにも、たまには配食サービスを利用して食事作りを休んでみましょう。
参考:厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理」
参考:厚生労働省「介護事業所・生活関連情報検索」
前向きに介護をするために、介護者が知っておきたい心理学の知識を3つご紹介します。
課題の分離とは自分の課題(自分でコントロールできること)と他人の課題(自分がコントロールできないこと)を分けて考えることです。
介護の現場で課題の分離を実行するには、次の4つの言葉をまず理解することが大切です。
項目 | 概要 |
課題 | する必要のあること |
分離 | 自分と他者の間に境界線を引くこと |
介入 | 自分と他者との間に引いた境界線を踏み越えること |
援助 | 求められて他人の課題にアドバイスや部分的なサポートをすること |
課題は個人により異なるため、それぞれがしっかり分離した上で介入をせず、必要な時だけ援助を求めたり、求められたりするのが理想的な課題解決方法だと言えるでしょう。
介護者と要介護者の間でもこれは例外ではなく、しっかりと課題は分離し介入をしないことが信頼関係を維持し、援助をした際の感謝の気持ちにもつながるのです。
介護者が課題の分離に取り組む時に意識したいポイントは次の5つです。
・解決しなければならないことに優先順位をつけて行動し要介護者への「介入」を避ける
・目の前にある課題は誰の課題かを考えてから行動に移す
・定期的に自分の課題と要介護者の課題を切り分ける
・感情も課題の分離を行う
・要介護者の選択や行動を信じる
前向きに介護に向かうためにも、課題の分離をしっかりと実行できるようになりましょう。
レジリエンスとは、「回復力」「弾力」「しなやかさ」などの意味を持つ英単語の「resilience」から来た言葉で、心理学の分野においては困難があり危機的な状況に差し掛かっても精神的に回復し、成長することを指します。
レジリエンスを高めることで、ストレスを成長につなげることができたり、課題解決力が高まったりするのが大きなメリットだと言えるでしょう。
レジリエンスを高める方法を3つご紹介します。
・感情をコントロールする
・自尊感情(自分が自分のことを尊重する感情)を高める
・自己効力感(自分ならきっとできると信じる力)を高める
また2011年にアメリカ心理学会が発表した「10代の若者のためのレジリエンス」もレジリエンスを高めるためのヒントとなるでしょう。
前向きに介護をするためにも、レジリエンスを高め困難から成長できる自分を少しずつ作っていきましょう。
参考:アメリカ心理学会「10代の若者のためのレジリエンス:厳しい時代から跳ね返るスキルを身に着けるための10のヒント」
コーピングとはストレスに対処するための意識的な行動のことで、次の3種類にわけられます。
項目 | 概要 |
問題焦点型コーピング | ・ストレスの原因となっている課題を解決してストレスを解消すること |
情動焦点型コーピング | ・ストレスへの感じ方や捉え方を変えることでストレスを解消すること |
ストレス解消(発散)型コーピング | ・ストレスはストレスとして受け止め、気晴らしをしてストレスを解消すること |
介護の現場で受けたストレスを放置するのは、心や身体の健康を維持する上では大きなリスクとなるため、自分の受けたストレスに気づき適切なタイミングでコーピングを行うことが大切だと言えるでしょう。
前向きに介護に取り組むため、少しずつ自分に合ったコーピングの方法を身に着けてみてください。
前向きに介護ができる条件とは、身体が健康であること、心が健康であること、適切な介護スキルが身に着いていることの3つですが、特に身体と心の健康を維持するため時には介護サービスを利用して介護を休んだり、心理学を活用して心のケアをすることが大切です。
この記事も参考にして、ぜひ自分が前向きに介護に取り組めるよう工夫をしてみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2023年03月30日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。