徘徊とは?事例から認知症当事者を置き去りにしない対応方法まで詳しく解説

更新日:2023年05月31日

公開日:2023年05月31日

年配の方の後ろ姿

認知症の家族がいてたびたび近所への徘徊を繰り返し、都度対処はしてきたもののもう疲れてしまったという人はいませんか?

この記事では、徘徊とは何かから認知症当事者の声を聞くことでわかってきた徘徊原因対応方法まで詳しく解説します。

徘徊とは?

公園のベンチに座る年配の人

徘徊とは認知症の症状の1つで、一見目的もなく歩き回っているように見えますが、本人の中ではしっかりとした原因や理由があって歩き回っているのが特徴的と言えるでしょう。

徘徊」という言葉が実態と合っていないとも言えるため、愛知県大府市、東京都国立市、福岡県大牟田市、新潟県糸魚川市、兵庫県などの地方自治体では、「徘徊」という言葉を「ひとり歩き」といった言葉に言い換えています。

しかし厚生労働省においては「痴呆」を「認知症」に言い換えた時のような対応は行っていません。

認知症の症状は次の2つにわけられます。

症状の種類症状の原因主な症状
認知機能障がい(中核症状)・脳の働きが低下することによって引き起こされる・記憶障がい 
・見当識障がい
・実行機能障がい
・失語 
・失行 
・失認
行動・心理症状(BPSD)・中核症状を基に身体的、環境的、心理的要因によって引き起こされる徘徊 
・幻覚 
・幻想 
・不安
・抑うつ 
・せん妄 
・失禁 
・異食 
・弄便 
・暴力、暴言

徘徊は認知症の行動・心理症状の1つであるため、原因や理由を周囲の人が理解し適切な対応方法を取ることで、問題なく生活が送れることもあります。

一方徘徊によって行方不明になってしまう人もいるため、厚生労働省では身元不明の認知症高齢者に対する特設サイトを設け、各市町村で保護されている認知症高齢者の捜索をサポートしているのです。

もし認知症高齢者が行方不明になって手がかりが必要な場合は、厚生労働省の特設サイトに一度目を通し、情報収集してみましょう。

参考:新潟県立大学学術リポジトリ「認知症における『徘徊』の言い換えについて」
参考:厚生労働省「行方のわからない認知症高齢者等をお探しの方へ」

認知症当事者の話からわかってきた徘徊の原因

舗装された道を歩く年配の人の後ろ姿

近年少しずつ認知症についての研究が進み、当事者の話から徘徊原因が少しずつ解明されてきています。

認知症当事者が語る徘徊原因を、9個ご紹介します。

完了済みの経験を現在進行中のことと勘違いするため

認知症の人は完了済みの経験を現在進行中のことと勘違いしてしまい、それが原因で徘徊をすることがあります。

例えば働いていたころに毎朝7時に家を出て電車に乗って通勤していたとすると、それを今しなければならないことと勘違いし、家を出てしまうといったことが起こるのです。

本人にとっては退職する前の習慣に基づいて行動を起こしているだけなので、自分の中では矛盾を感じていないのですが、時間の経過とともになぜ家を出たのかを忘れてしまうため、周囲の人に理由をうまく伝えられません。

予定や計画を保持・想起できないため

認知症の人は予定や計画を保持・想起できないのが原因で、徘徊をすることがあります。

予定や計画を実行するにはそれらを記憶しておくことが必要ですが、記憶とは、次の3つの過程で成り立っているのをご存知でしょうか。
①記銘(知識や情報を頭の中に取り込む)
②保持(知識や情報を維持する)
③想起(知識や情報を必要な時に取り出す)

認知症の人の場合、記憶の過程のうち記銘、保持、想起のどれかがうまくいかなかったり、記憶した後の行動がうまくできなかったりします。

そのため、例えば自分で友達を誘って出かけようとしたにもかかわらず、友達を誘ったという予定や計画が記憶できず、1人で徘徊してしまうといったことが起きるのです。

場所やランドマークを保持・想起できないため

認知症の人は目的地となる場所や目印となるランドマークを記憶できないのが原因で、徘徊をすることがあります。

本人の認識では目的地へと向かっているのですが、場所や目印となるランドマークを見ても「記銘」「保持」「想起」、また記憶した後の行動がうまくできないため、例えば次のような行動をしてしまうのです。

・なじみの店に行こうと思って逆方向に歩いていってしまう
・自分の位置と目的地の位置関係がわからず混乱する
・歩きなれた道でも新しい建物ができると見慣れない道と感じる
・自宅に戻ろうとして同じ道を繰り返し歩いても帰れない
散歩をしていて道が合っているか間違えているかわからなくなる

年齢相応の「物忘れ」とは性質の異なる忘れ方が徘徊に結び付いているのがわかります。

数字や記号を保持・想起できないため

認知症の人は目的地の手がかりとなる住所における番地の数字や標識などの記号を記憶できないのが原因で、徘徊をすることがあります。

番地の番号を1つずつ数えていたとしても、いつのまにかどこまで数えていたのか忘れてしまったり、標識を見てもそれが何を表すのかがわからなくなってしまうということです。

例えばスマホのパスワード、自宅の住所の番地、銀行の暗証番号といった自分の生活に密着した重要な数値であっても例外ではないため、目的地の住所の番地を覚えておくのはとても困難なことだと言えるでしょう。

目的達成に必要な手続きや手順を想起できないため

認知症の人は目的地に到着するために必要な手続きや手順を想起できないのが原因で、徘徊をすることがあります。

例えば初めての目的地へと到着するには「目的地の住所と到着時刻を覚える」「電車に乗る」「バスに乗る」「乗換をする」「歩く」といった手順が必要で、その合間には「切符を買う」「バス料金を支払う」といった手続きをしなければなりません。

しかし認知症の人はこれらの手続きや手順を次のような形で想起できなくなることがあります。
・アナログ時計の針の意味がわからず時計が読めない
・券売機のボタンを見てもボタンが何を表しているのかわからない
・エレベーターを見てもどれに乗れば目的のフロアに行けるかがわからない
・道を誰かに聞いても文法や複数の単語の組み合わせを理解できず結局わからない
・料金の支払い方法について順序立てて説明を受けても理解できない

認知症の人にとって新しい場所に行くということは、事前準備を行わないと敷居が高いというのがわかります。

方向・向きがわからないため

認知症の人は自分の向かっている方向や向きがわからないのが原因で、徘徊をすることがあります。

具体的には次のようなことが起こります。
・右と左がわからなくなる
・地図で見た二次元の情報を頭の中で三次元に当てはめることができなくなる
・標識を見ても矢印がどこを指しているのかわからない
・電車の進行方向がわからない
・自分がどの方向から来たのかわからない

方向感覚が失われた中での外出は、非常に困難が多いことがわかります。

考えたことを行動に移せないため

認知症の人は自分で考えた内容を行動に移せないのが原因徘徊をすることがあります。

具体的には次のようなことが起こります。
・バスの降車ボタンやエレベーターのボタンなどを強く意識しないと押せない
・奥行きの認識が難しくかばんや財布からうまくものを取り出せない
・階段を降りる時自分の足をどのくらい前に出せばよいかがわからない

自分の意思と実際の身体の動きにずれが生じている状態なので、正しく目的地にたどりつくのが難しくなるわけです。

複数の情報を統合・処理できないため

認知症の人は複数の情報を統合・処理できないのが原因徘徊をすることがあります。

例えば電車のICカードにチャージをするためには、「カードを入れる」「チャージ金額を選ぶ」「お金を入れる」など複数の動作が必要となりますが、これらの手順や自分にとって最適な金額を認知症の人は導きだせなくなるということです。

街を歩いてみるとたくさんの情報が目に入ってきますが、認知症の人はこれらをうまく取捨選択できないため、混乱を生み出す基になっていると言えるでしょう。

同時・多数のことを作業できないため

認知症の人は複数のことを同時進行できないのが原因で徘徊をすることがあります。

例として赤信号で止まるためには「信号を見る」「止まるかどうか判断する」「足を止める」という3つを同時に行う必要がありますが、認知症の人の場合は「信号を見れない」「見ても足を止められない」といったことが起こり、結果的に赤信号でも横断してしまうのです。

参考:筧裕介「認知症世界の歩き方」
参考:認知症当事者ナレッジライブラリー 公式ホームページ

認知症当事者が語る徘徊の事例

ブランコに乗る年配の人の後ろ姿

認知症当事者が語る徘徊事例は、認知症当事者ナレッジライブラリーに対処方法とともに多数紹介されているので、一部をご紹介します。

・朝病院に向けて出発したはずが到着したのは昼だった
・左右の感覚がわからず自分がどこから来たかわからなくなる
・移動中目にする情報が多くて混乱しとても疲れる
・よく知っているはずの地名なのに、具体的な場所・雰囲気・その場所での思い出がわからない
散歩に行って道がわからなくなる
・地図を持っていてもそれを読みながら目的地にたどりつけない
・地図の上下左右がわからず自分との位置関係がつかめない
・記憶にある風景と実際の風景が違うと別世界のように感じて混乱し、目的地にたどりつけない
・道を歩いていて猫を見ると本物かどうか考えてしまい疲れる
・地下鉄や夜の道は目印がなく混乱する
・電車に乗り他のことをすると目的地の駅で降りられなくなる
・電車の色だけで乗る電車を判断してしまい間違える
・無意識に信号無視をした

他の人から見ると徘徊に見える上記のような事例でも、本人にとっては理由のある行動の1つなのでつじつまは合っていますが、本人が行動の間違いに気づいていることもあります。

例えば最初は目的地に向かって歩いてきたものの、途中で何をしにきたかわからなくなり、突然他人に「自分の家はどこですか」とは聞けず困っている場合もあるということです。

また目的地にいつまでたってもたどりつかないことに気づき、内心とてもショックを受けて自信喪失してしまう人もいます。

同じ認知症による徘徊事例ではあるものの、行き先の間違いに本人が気づいているかどうかや、その間違いをどのように捉えるかは個人差が大きいのです。

このことを踏まえて、徘徊の事例を知っておくのは認知症の人を支える家族にとって参考になりますが、対応については本人の意思や性格を尊重しながら行うのが望ましいと言えるでしょう。

参考:認知症当事者ナレッジライブラリー 公式ホームページ

認知症当事者を置き去りにしない徘徊への対応方法

ヘルプカードとメモ帳

認知症当事者を置き去りにしない、徘徊への適切な対応方法とはどのようなものなのでしょうか。

認知症当事者ナレッジライブラリーには、認知症当事者が徘徊をしないための工夫が「知恵」として掲載されているため、一部をご紹介します。

・目的地に確実に行くため送迎車やタクシーを活用する
・ガイドヘルパーに同行を依頼する
・ヘルプカード(一見障がいがあるとわかりにくい人がつけることで周囲の人に配慮が必要と知らせるためのカード)を見せて、周囲の人にサポートをしてもらう
・地図アプリの検索結果をスクリーンショットで保存しておき、現在地と照らし合わせて確認する
・乗換や電車から降りる時間に合わせてタイマーをセットする
・電車に乗りながら他のことをしないようにする
・出かける時間は、家の目につく場所に大きめのコルクボードやホワイトボードを設置し書いておく
・券売機など外出先で使う機械の操作方法をマニュアル化して、操作はそれを見ながら行う
・遠回りでも自分にとって安全な道を選ぶようにする

どの方法も本人ができることは尊重し、できないことだけをサポートしているのが特徴的だと言えるでしょう。

なるべく徘徊を予防するという考え方に囚われすぎず、本人が外出を楽しくできる方法を寄り添って考えるのが望ましい姿勢と言えるのではないでしょうか。

参考:認知症当事者ナレッジライブラリー 公式ホームページ

まとめ

手を繋いでいる写真

徘徊とは認知症の症状の1つで、一見目的もなく歩き回っているように見えますが、本人の中ではしっかりとした原因や理由があって歩き回っているのが特徴的です。

徘徊を「危険な行為」「させてはいけない行為」と捉えすぎず、本人が思う外出理由を尊重し、それに寄り添うことが少しずつ徘徊を減らす要因となっていくでしょう。

この記事も参考に、ぜひ認知症当事者に寄り添った徘徊への対応を行ってみてください。

※掲載情報は公開日あるいは2023年05月31日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。

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