尊厳とは介護においてどのように位置づけられている?事例も含めてご紹介

更新日:2023年05月31日

公開日:2023年05月31日

車椅子の女性とスタッフ

教科書で尊厳ある介護について学んだけれど、まだ介護の現場で仕事をしたことがないので、具体的のどのようなことをすれば尊厳を傷つけない介護となるのかがよくわからないという人はいませんか?

この記事では、尊厳とは介護においてどのように位置づけられているのかを、事例も含めてご紹介します。

尊厳とは?

日本国憲法の見出し

個人の尊厳とは、全ての個人がお互いを人間として尊重し合う法原理(法律の原理のことで、法律に含まれる道理を指す)です。

個人の尊厳について触れている法律には次のようなものがあります。

法律名個人の尊厳に触れている部分の概要
日本国憲法・第13条「すべて国民は、個人として尊重される」
・第24条②「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚、結婚、家族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性が本質的に平等であるという立場を取って制定されなければならない」
医療法・第1条の2「医療は生命の尊重と個人の尊厳の保持を重んじる」
社会福祉法・第3条「福祉サービスは個人の尊厳の保持を重んじる」
障害者基本法・第3条「全ての障がい者が健常者と等しく基本的人権を持つ個人として尊厳が重んじられ、尊厳にふさわしい生活を保障される権利がある」
社会福祉士及び介護福祉士法・第44条の2「社会福祉士と介護福祉士は、担当する人が個人の尊厳を保持し自立した日常生活を営むことができるよう、常にその人の立場に立って誠実に業務を行わなければならない」
精神保健福祉士法・第38条の2「精神保健福祉士は、担当する人が個人の尊厳を保持し自立した日常生活を営むことができるよう、常にその人の立場に立って誠実に業務を行わなければならない」

尊厳については日本国憲法を始め、医療や介護に関わる法律で広く触れられていることがわかります。

参考:e-GOV法令検索

介護における尊厳

笑顔の車椅子の女性と看護師

介護における尊厳とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

3つの観点からご紹介します。

介護保険法における「尊厳の保持」

介護において尊厳という言葉が注目され始めたのは、2000年に介護保険法が施行され、2005年の改正で尊厳の保持について明記されてからです。

1963年に施行された老人福祉法と介護保険法で、それぞれの目的を比較してみましょう。

法律の種類目的
老人福祉法・第1条「老人の福祉に関する原理を明らかにするとともにその心身の健康および生活の安定のために必要な措置を講じ、老人の福祉を図る」
介護保険法・第1条「加齢に伴って生じる心身の変化から起こる病気などにより介護が必要な状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練、看護、療養上の管理、その他の医療を求める人たちについて、尊厳を保持し、残存能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービスや福祉サービスにかかる給付を行うため介護保険制度を設け、保険給付などに関して必要な事項を定め、国民の保健医療の向上と福祉の増進を図る」

老人福祉法の目的には尊厳という言葉は出てきませんが、介護保険法の目的には「尊厳を保持し」という言葉が含まれているのがわかります。

また介護保険法が改正される前の、2003年に行われた高齢者介護研究会は「2015年の高齢者介護~高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて~」という報告書を発表しました。

この報告書では、これからの高齢社会においては「高齢者が尊厳をもって暮らすこと」を確保するのが最も重要であるとし、「尊厳を支えるケアの確立」の前提として、介護保険制度を持続可能なものとしていくのが重要だとしています。

このような流れから介護保険法には高齢者の尊厳の保持が目的として明記され、現在も守られているのです。

参考:e-GOV法令検索

介護保険法において尊厳の保持が重要視される理由

介護保険法において尊厳の保持が重要視される理由は、介護保険法の目的であると同時に介護保険制度の理念でもあるためです。

例えば厚生労働省のホームページの「介護・高齢者福祉」のページには「高齢者が尊厳を保ちながら暮らし続けることができる社会の実現を目指して」という文言が掲げられています。

また「地域包括ケアシステム」のページには「高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています」と記載されているのです。

参考:厚生労働省「平成21年度介護報酬改定について」
参考:厚生労働省「介護・高齢者福祉」
参考:厚生労働省「地域包括ケアシステム」

介護における尊厳の保持の対象者

介護における尊厳の保持は要介護者だけが対象者だと勘違いされがちですが、日本国憲法の13条に「すべて国民は、個人として尊重される」との記載があることから、介護者の尊厳も保持されなければなりません。

尊厳ある介護をするためには、介護者と要介護者がお互いに相手を尊重する気持ちを持つことが大切です。

尊厳を支える介護の事例

談笑するスタッフと男性

介護者が要介護者の尊厳を支える介護とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

4つの事例をご紹介します。

主体性の尊重

介護者が要介護者の尊厳を支えるには、主体性を尊重することが大切です。

具体的には介護者が介護を行う際、要介護者の意思決定や判断を尊重するということです。

もし意思決定や判断が困難な場合であっても、選択肢を複数示して選んでもらったり、わかりやすく説明したりして本人の意志を確認するようにしましょう。

介護者が要介護者の主体性を尊重することで信頼関係が構築されるため、介護者も少しずつ要介護者を尊重するようになります。

自由意志の尊重

介護者が要介護者の尊厳を支えるには、自由意志を尊重しましょう。

要介護者が社会のルールを守らない行動を取ろうとした場合は止めることも必要かもしれませんが、要介護者が自分の意志で行動すること、あるいは行動しないことを理由もなく止めてはいけません。

介護者が考えた行動の方がメリットがあったとしても、それは提案や相談という形で要介護者に伝える必要があり、要介護者にはそれを断る権利があるということです。

介護者が要介護者の自由意志を尊重し続けることで、要介護者も少しずつ心を開き提案や相談を受け入れてくれる可能性が出てくるでしょう。

人格や品格の尊重

介護者が要介護者の尊厳を支えるには相手の人格や品格を尊重しましょう。

要介護者には、自分が心地よくいられる生活や築いてきた人間関係の歴史がありますが、その過程で作り上げてきた自分という存在はかけがえのないものだと言えます。

積み重ねてきた要介護者の歴史によって作られた、本人が大切にしていることや不愉快に感じることを尊重して介護を行うのが大切です。

介護者が要介護者の人格や品格を尊重して介護をすることで、介護者もまた要介護者から心地良い存在として受け入れてもらえるようになるでしょう。

存在そのものの尊重

日本国憲法の第13条に「すべて国民は、個人として尊重される」と記載されているように、要介護者がどのような状況にあってもその存在は尊重されなければなりません。

例えば加齢によりコミュニケーションが難しい要介護者に対しても、介護者は最大限要介護者の尊厳を守る声がけや対応を行う必要があるということです。

介護者が要介護者の存在そのものを尊重することで、介護者も要介護者を少しずつ尊重してくれるようになるでしょう。

尊厳を傷つける介護の事例

手を振りかざす女性

介護者が要介護者の尊厳を傷つける介護事例とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

2つご紹介します。

身体的尊厳を損ねる

身体的尊厳を損ねるような介護は、要介護者の尊厳を傷つける介護だと言えます。

例として次のような介護があります。

身体的尊厳を損ねる介護の種類概要
身体的虐待をする・暴力をふるう
・身体拘束をする
・乱暴な身体介護をする
・外部との接触ができないようにする
・過剰な介護をする
介護を放棄する・ケガを放置する
・感染症を予防しない
・居室の環境整備をしない
・排泄介護をしない

これらは要介護者の身体的尊厳を傷つけるだけではなく、高齢者虐待と見なされる行為でもあります。

精神的尊厳を損ねる

精神的尊厳を損ねる介護も、要介護者の尊厳を傷つける介護です。

具体例は次の通りです。

精神的尊厳を損ねる介護の種類概要
心理的虐待をする・暴言を吐く
・1人きりで放置する
・怖がらせたり驚かせたりする
・命令する
・無視する
・差別する
性的虐待をする・セクハラ行為をする
・排泄時にプライバシーを守らない
経済的虐待をする・要介護者のお金や持ち物を取り上げる
・不要な介護サービスを行う
・要介護者の持ち物を無断で処分する

これらも要介護者の精神的尊厳を損ねるだけではなく、全て高齢者虐待にあたります。

参考:東京都保健福祉局「虐待の種類と程度」

尊厳ある介護をするために持ちたい視点

車椅子の男性と支えるスタッフ

尊厳ある介護をするために、介護者はどのような視点を持てばよいのでしょうか。

3つご紹介します。

身体面での視点

尊厳ある介護をするためには、要介護者の身体面に対し次のような視点を持つことが大切です。

視点具体例
ケガを予防するための環境を整える・要介護者に合った転倒防止対策を取る
・身体拘束について正しい知識を持つ
・寝たきりの要介護者にはこまめに体位変換を行い褥瘡予防をする
・食事介助をする際温度を確認してから口に運ぶ
・安全確保のため必要があれば相談の上2人介助ができる体制を整える
病気を予防するための環境を整える・要介護者に合った誤嚥防止対策を取る
・感染症予防のため清掃、換気、消毒などを適切に実施する
機能低下を予防するための環境を整える・要介護者に合った排泄介助を行う
・できることはなるべく自分でやってもらう
・本人の意志を尊重した外出に付き添う

身体的尊厳を損ねないようにすることは、要介護者本人が病気やケガをせず、健康的な生活を送ることにつながります。

また長期的に見れば、要介護度が上がらないように配慮しながら介護をすることもできるのです。

精神面での視点

尊厳ある介護をするためには、要介護者の精神面に対し次のような視点を持つことが大切です。

視点具体例
不安を感じさせない環境を整える・1人きりで放置しない
・怖がらせたり驚かせたりしない
・適度な距離感を保ち声がけをする
不信感を抱かせない環境を整える・嘘をつかない
・約束を守る
・要介護者のお金や持ち物に触る際は本人の許可を得て行い本人のいない場所では触らない
悲しい気持ちにさせないよう配慮する・無視や差別、仲間外れにしない
・いじめたり孤立させたりしない
・セクハラをしない
・決めつけない
怒らせないように配慮する・子供扱いをしない
・バカにしたり見下したりしない
・物事を強要しない
・命令をしない

精神的尊厳を損ねないようにすることは、要介護者との信頼関係を構築することにつながります。

社会面での視点

尊厳ある介護をするためには、要介護者の社会面に対し次のような視点を持つことが大切です。

視点概要
権利をはく奪しないように配慮する・職業選択の自由を奪わない
・言論の自由を奪わない
・選挙権を正しく行使してもらう
・生存権を侵害しない
・男女平等を守る
・基本的人権を尊重する
経済的な損失をさせないよう配慮する・要介護者のお金で不要な買い物をしない
・要介護者のお金で本人の許可なく高価な物を買わない
・要介護者のお金で購入した物を無駄に消費しない
・効率的にケアを行う
・効果のあるケアを行う

要介護度が上がるに従って社会面での視点が薄れてきがちですが、コミュニケーションが取りにくくなったからといってその人の社会的活動を制限したり、経済的な損失を与えたりするのは望ましいこととは言えません。

まとめ

笑顔の女性スタッフと車椅子の女性

尊厳とは全ての個人がお互いを人間として尊重し合う法原理(法律の原理のことで、法律に含まれる道理を指す)で、介護保険法においては高齢者の尊厳の保持が目的として明記されています。

この記事も参考にして、尊厳ある介護をするための身体面、精神面、社会面での視点を身に着け、要介護者から信頼を得られる介護者を目指してみてください。

※掲載情報は公開日あるいは2023年05月31日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。

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