更新日:2023年05月31日
公開日:2023年05月31日
将来高齢者介護の現場で働こうと考えているので、介護業界が抱えている課題の現状やその解決策について知っておきたいけれど、何から調べたらよいかわからず困っている人はいませんか?
この記事では、高齢者介護における介護問題の現状から解決策まで詳しく解説します。
日本における高齢者介護は、高齢化などの時代背景に応じてそのあり方が変化してきました。
例として1963年に施行された老人福祉法と、2000年に施行された介護保険法それぞれの目的を比較してみましょう。
法律の種類 | 目的 |
老人福祉法 | ・老人の福祉に関する原理を明らかにするとともにその心身の健康および生活の安定のために必要な措置を講じ、老人の福祉を図る |
介護保険法 | ・加齢に伴って生じる心身の変化から起こる病気などにより介護が必要な状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練、看護、療養上の管理、その他の医療を求める人たちについて、尊厳を保持し、残存能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービスや福祉サービスにかかる給付を行うため介護保険制度を設け、保険給付などに関して必要な事項を定め、国民の保健医療の向上と福祉の増進を図る |
老人福祉法では高齢者介護が「措置」だった時代を反映して、高齢者の心身の健康と生活の安定を目的として高齢者介護という措置を講じることが明記されています。
一方介護保険法では高齢者介護が介護保険制度によって「サービス」へと変化したのを反映して、高齢者が尊厳を維持することを目的として高齢者介護というサービスを行うとされているのです。
これらのことから、高齢者介護は今後も時代背景やニーズに合わせて定義が変化していくことが予想されます。
参考:厚生労働省「2015年の高齢者介護」
参考:e-GOV法令検索「老人福祉法」
参考:e-GOV法令検索「介護保険法」
高齢者介護の現場が現在抱えている7種類の介護問題の現状とその原因をご紹介します。
老老介護とは、介護者と要介護者の双方が65才以上の高齢者である状態、認認介護とは、介護者と要介護者の双方が認知症を発症している状態のことです。
2022年に内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」では、平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)の推移は次の通りでした。
2001年 | 2010年 | 2019年 | 2019年と2001年の差 | |
男性の平均寿命 | 78.07才 | 79.55才 | 81.41才 | 3.34才 |
男性の健康寿命 | 69.40才 | 70.42才 | 72.68才 | 3.28才 |
女性の平均寿命 | 84.93才 | 86.30才 | 87.45才 | 2.52才 |
女性の健康寿命 | 72.65才 | 73.62才 | 75.38才 | 2.73才 |
男女とも平均寿命が伸びているものの健康寿命も伸びていることから、夫婦どちらかが要介護状態となっても片方が健康な場合介護を引き受けてしまい、そのまま老老介護や認認介護につながっていくことが予想されます。
また2019年に厚生労働省が発表した「2019年 国民生活基礎調査の概況」によると、要介護者の主な介護者は「同居」が54.4%で続柄は「配偶者」が23.8%でそれぞれ最も多くなっているため、夫婦間で老老介護や認認介護を行っている人が一定数いるのがわかります。
老老介護や認認介護が引き起こされる原因は次の3つです。
・平均寿命と健康寿命との間に差があるため
・夫婦のみの世帯が増加したため
・高齢者が介護費用をまかなえないため
高齢化は進むものの経済的に苦しく、介護サービズに頼れない人が多い現状が垣間見えます。
参考:内閣府「高齢社会白書」
参考:厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査の概況」
介護難民とは、介護を必要とする高齢者や障がい者が必要な介護サービスを受けられない状態を指します。
2015年に日本創成会議・首都圏問題検討分科会の提言として行われた「東京圏高齢化危機回避戦略」記者会見では、2025年に全国で介護が必要であるにもかかわらず介護施設に入所できない人の数は43万3591人に上ると試算されたため、早急な対策が必要な状況だと言えるでしょう。
介護難民が増加する原因は次の5つです。
・人口構造が変化し高齢者の全人口に占める割合の増加
・要介護認定者数の増加
・介護業界における人材不足
・家族介護ができない
・高齢者が介護費用をまかなえない
介護サービスに対する需要と供給のバランスが崩れてきていることから、介護難民の問題が引き起こされたと言えるでしょう。
参考:日本創成会議「日本創成会議・首都圏問題検討分科会 提言 『東京圏高齢化危機回避戦略』記者会見」
介護離職とは家族や親族の介護をするため仕事をやめてしまうことを指します。
2021年に厚生労働省が行った「令和3年雇用動向調査」の結果によると、介護や看護を担うことが多い40代~50代における介護・看護を理由とする離職率は、次の通りでした。
男性 | 女性 | |||||
一般労働者 | パートタイム労働者 | 合計 | 一般労働者 | パートタイム労働者 | 合計 | |
40才~44才 | 0.1% | 0.0% | 0.1% | 0.1% | 0.1% | 0.1% |
45才~49才 | 0.1% | 0.0% | 0.1% | 0.1% | 1.1% | 0.5% |
50才~54才 | 0.0% | 0.0% | 0.0% | 0.3% | 0.3% | 0.3% |
55才~59才 | 0.1% | 0.3% | 0.1% | 0.1% | 1.9% | 1.0% |
男性より女性、一般労働者よりパートタイム労働者の方が介護・看護を理由とする離職率が高いことがわかります。
介護離職をしてしまう原因は次の通りです。
・介護休業、介護休暇制度の利用率が低い
・業務負担が大きく代替要員がいない
・一般労働者の場合長時間労働を背景に介護休業、介護休暇が利用しにくい雰囲気のため
介護休業制度や介護休暇制度が働きながら介護をする人には利用しにくく、休んだ時に代わって仕事をしてくれる人もいないことから介護離職につながる現状が垣間見えます。
参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査結果の概要」
参考:株式会社大和総研「介護離職の現状と課題」
高齢者虐待とは高齢者に対して行う虐待のことで次のような種類があります。
・身体的虐待
・心理的虐待
・性的虐待
・経済的虐待
・介護やお世話の放棄、放任
2021年に厚生労働省が発表した「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」によると、高齢者虐待の相談・通報件数と虐待判断件数は次の通りでした。
2006年 | 2013年 | 2021年 | |
介護業務に従事する人による高齢者虐待の相談・通報件数 | 273件 | 962件 | 2,390件 |
介護業務に従事する人による虐待判断件数 | 54件 | 221件 | 739件 |
高齢者の世話をしている家族、親族、同居人などによる高齢者虐待の相談・通報件数 | 18,390件 | 25,310件 | 36,378件 |
高齢者の世話をしている家族、親族、同居人などによる虐待判断件数 | 12,569件 | 15,731件 | 16,426件 |
高齢者介護に従事する人の虐待件数が15年間で約14倍に増加し、家族の虐待件数も約1.3倍に増加しています。
高齢者虐待をしている人は虐待をしている自覚がない場合も多いため、高齢者虐待についてあまり知られていないのも虐待増加の一因になっていると言えるでしょう。
参考:厚生労働省「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」において介護従事者19,925人を対象に労働条件の悩みについてたずねた所、次のような結果が出ました。
人手が足りない | 身体的負担が大きい | 健康面の不安がある | 有給休暇が取りにくい | 休憩が取りにくい | 労働時間が長い | |
全体 | 52.3% | 30.0% | 28.1% | 25.6% | 21.1% | 7.8% |
労働条件の悩みとして人手不足と回答した人が半数を超え、人手不足を起因とした悩みを上げた人も7%~30%いたのです。
このことから、国が介護人材の確保に向けたさまざまな取り組みをしているものの、追いついていない現状がうかがえます。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査について」
独居老人とは一人暮らしをしている高齢者のことを指します。
2022年に内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」によると、2019年現在65才以上の高齢者がいる世帯は2,558万4,000世帯でしたが、その中で単独世帯がどのくらいあるか調べてみた所次のような結果でした。
1980年 | 2010年 | 2019年 | |
単独世帯 | 91万1千世帯 | 501万8千世帯 | 736万9千世帯 |
単独世帯は39年間で約8倍となり、独居老人が年々増え続けていることがわかります。
高齢者が独居老人となる原因は家族の他界、何らかの理由で同居できない、子供がいないなど状況に応じて異なるのが特徴的だと言えるでしょう。
参考:内閣府「高齢社会白書」
社会保障給付費とは医療、医療、福祉などの社会保障に対して支払われる費用の総称です。
2022年に厚生労働省が発表した「社会保障給付費の推移」によると、給付費総額の推移は次の通りでした。
1970年 | 1990年 | 2010年 | 2022年(予算ベース) | |
給付費総額 | 3.5兆円 | 47.4兆円 | 105.4兆円 | 131.1兆円 |
1970年から2022年までの52年間で給付費総額は約37.4倍となり、右肩上がりに上昇を続けています。
日本の高齢化と介護や医療を必要とする人が増えたのが給付費総額上昇の原因だと言えるでしょう。
参考:厚生労働省「社会保障給付費の推移」
前の項目で日本の高齢者介護が抱える介護問題とその原因について解説しましたが、それぞれの解決策についてもご紹介します。
老老介護と認認介護の解決策には次のようなものがあります。
・介護保険サービス、介護保険外サービスを利用する
・地域のコミュニティに参加する
・あらかじめ家族で介護について話し合う
老老介護や認認介護になってからでは、介護保険サービスや介護保険外サービスを受けたくないと感じる人も出て来るため、あらかじめ家族で介護について話をしたり、自分にない価値観に接することのできる地域のコミュニティへの参加をしたりするのは重要だと言えるでしょう。
介護難民への対策には次のようなものがあります。
・介護人材の確保
・ICTや介護ロボットなどを活用した介護の現場における生産性の向上
・介護事業所における働き方改革
ICTや介護ロボットなどを利用して効率化し、少ない人材でも効率よく現場を回せるようにするのはもちろんですが、事業所において働き方改革を推進し魅力ある職場作りを進めることが介護業界全体の活性化にもつながるでしょう。
介護離職を防ぐためには、次のような対策を取るのが望ましいでしょう。
・仕事と介護の両立を支援する制度についてあらかじめ学んでおく
・企業は介護休業制度、介護休暇制度における設計の見直しを行う
・企業はまだ介護に直面していない従業員に対し仕事と介護の両立についての研修を行う
仕事と介護の両立を支援する制度については、厚生労働省の特設サイト「介護休業制度」があり、厚生労働省のホームページには仕事と介護の両立支援のためのツールや事例が掲載されているため、参考にしてみましょう。
参考:厚生労働省「介護休業制度」
参考:厚生労働省「仕事と介護の両立支援~両立に向けての具体的ツール~」
高齢者虐待を防止するには、次のような方法があります。
・介護サービス事業所では高齢者虐待に関する研修や働き方改革を行う
・家族介護者が介護疲れを感じたらレスパイトケア(介護者が一時的に介護から離れるためのケア)を積極的に利用する
・地域包括支援センターなどの専門機関に相談する
事業所や家族での取り組みも大切ですが、解決が難しければ専門家の手も借りるのが望ましいでしょう。
介護業界における人手不足を解決するには、次のような方法があります。
・ICTや介護ロボット、AIなどを積極的に活用する
・外国人介護人材の受け入れを検討する
・働き方改革に取り組む
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」の結果では外国人介護人材を受け入れている事業所はまだ6.2%でした。
厚生労働省のホームページでは外国人介護人材の受入れに関するページがあるので、参考にしながら受け入れを検討するのもよいでしょう。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査について」
参考:厚生労働省「外国人介護人材の受入れについて」
一人暮らしの高齢者の見守りや支援をするには次のような方法があります。
・見守りサービスや見守り機器を活用する
・成年後見人制度を活用する
・対応が難しければ地域包括支援センターで専門家の力を借りる
見守りサービスでは、介護保険外サービスですが配食サービスを活用すると見守りとはあまり意識させずにお弁当を届けにいった時に安否確認ができますし、見守り機器では最新のAI、ICT技術が活用されているためバイタルサインなどを確認できるものもあります。
社会保障給付費の増加はすぐには解決できない難しい問題ですが、財務省のホームページに「これからの日本のために財政を考える」というページがあり、社会保障給付費の増加と持続可能な社会保障制度の構築について掲載されています。
社会保障給付費についてまずは知識を持ち、どうすれば減らせるかを議論できるようになるのが社会保障給付費についての問題を解決する上で大切なことだと言えるでしょう。
参考:財務省「これからの日本のために財政を考える」
高齢者介護は時代背景やニーズに合わせて定義が措置からサービスへと変化し、高齢化に伴い抱える課題も増えています。
この記事も参考にしてぜひ高齢者介護の問題を自分事として捉え、考えてみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2023年05月31日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。