更新日:2023年06月05日
公開日:2023年06月02日
「バリデーションを身につけて、認知症の利用者さんをうまく介護したい」「バリデーションを研修で取り上げたい」と思っている介護職員はいませんか。
バリデーションが認知症と関係があると知っていても、詳しい内容について理解されていない方もいるかもしれません。
そこで今回は、介護におけるバリデーションの目的や手法、介護施設での導入事例について解説します。
認知症の利用者様の介護や研修内容で悩んでいる介護職員は、ぜひ最後までご覧ください。
手法や事例の解説の前に、バリデーションの概要や目的、効果などについて解説します。
バリデーションとは、認知症の方に対するコミュニケーションの方法で、アメリカのソーシャルワーカーのナオミ・ファイルによって開発されました。
バリデーションは介護する側自身が変わることで、認知症の方の心を理解してコミュニケーションすることを目指しています。
介護職員がバリデーションを身につけるためには、後ほど解説する基本的態度と基本的テクニックの理解がとても重要です。
また、本来、バリデーションは「validation」と書き、日本語で「検証」や「確認」の意味を持つ英単語です。
介護業界だけではなく、IT業界ではプログラムが正しく機能しているかの検証業務、医薬品業界では医薬品の製造工程が正しいかの検証業務の意味で使われています。
バリデーションは、認知症の方の感情に焦点を当てることを目的としています。
感情に焦点を当てる理由は、人は認知機能が低下しても感情が最期まで残るからです。
感情に焦点を当て、認知症の方が自分の気持ちを表に出すことによって本心が理解でき、介護する側と介護される側の信頼関係が生まれてきます。
バリデーションによって認知症の方には、以下のような効果があります。
●不安・ストレスの軽減
●行動・心理症状の緩和
●自尊心の回復
●明るさを取り戻せる
●周りの人々との関係性の構築
また、バリデーションは介護される側だけではなく、介護する側にも以下のような効果をもたらすことが特徴です。
●認知症の方とのコミュニケーションの円滑化
●葛藤・ストレスの軽減
●コミュニケーションスキル(言語・非言語)の向上
●認知症ケアスキルの向上
●介護職としての自信の向上
バリデーションは、介護する側と介護される側の双方が幸せになれるコミュニケーション方法と言えるかもしれません。
次にバリデーションを行うときの基本的態度と基本的テクニックについて解説します。
日々の介護の現場を想像しながら読むと、より理解が深まりますよ。
バリデーションの基本的態度は以下の6個で構成されています。
●傾聴する:相手の本当の気持ちを理解しようと話を聞く
●強制しない・受容する:相手のあるがままを受け入れる
●誘導しない:介護する側のペースでなく認知症の方のペースにあわせる
●共感する:相手の感情が表出している箇所(表情・声のトーンなど)に気づき読み取る
●嘘をつかない:信頼しあうためには嘘をつかないことが重要である
●ごまかさない:その場しのぎのためのごまかしをせずに相手の本心を読み取る
この後に解説する基本テクニックを実践するためにも、上記の基本態度をしっかり理解することが重要です。
バリデーションの基本テクニックは以下の12個で構成されています。
●センタリング:介護する側が集中すること。集中しないと傾聴や相手に共感できない
●リフレージング :相手の会話の重要な箇所を反復する
●カリブレーション:相手の感情にあわせる。「笑っているときは一緒に笑う」など
●オープンクエスチョン:「はい」「いいえ」ではなく自由に回答できる質問をする
●反対のことを想像する:ネガティブな感情を思いおこさせポジティブな感情に変えていく。悲しんでいるときに「楽しかったことは何ですか」など
●極端な表現:極端なケースを想像して感情を表現しやすくする。「今までで一番つらいのですか」など
●レミニシング:昔話をしてもらい大事にしていることや心残りになっていることを捉え本心を探る
●行動と欲求を結びつける:行動から本心が何かを結びつけ捉える
●ミラーリング:声のトーン・声の大きさ・動作などをまねる
●タッチング:手・肩・頬などを触る。拒否があったら中断する
●音楽を使う:昔聴いていた曲・頻繁に口ずさむ曲をかけたり歌ったりする
●好きな感覚を使う:好きな香りや肌触りなどの嗅覚や触覚などを確認して話す
上記の基本テクニックのうちのいくつかは、日頃の介護現場で実践しているかもしれません。介護職員にとってバリデーションは身につけやすいコミュケーション方法と言えるでしょう。
バリデーションを日々の介護で活かしている介護施設を紹介します。
社会福祉法人豊悠福祉会の総合福祉施設である祥雲館は、バリデーションを積極的に導入しています。
祥雲館は、認知症の利用者様へのコミュニケーション方法に、施設全体で悩んでいる時期がありました。
例えば、帰宅願望のある利用者様に対する介護職員のその場しのぎの対応です。
そのようことの繰り返しによって、利用者様だけではなく介護職員も疲弊してしまうような悪循環に陥っていきました。
そのように悩んでいた時期にバリデーションを知り、祥雲館は認知症ケアとして導入していったのです。
祥雲館には、介護拒否をしている利用者様にバリデーションを活用し、成功した事例があります。
それは、ある利用者様が介護拒否をしていたときがありました。
介護職員は入浴や食事などの拒否ばかりを気にして、利用者様の思いを理解しようとはしていませんでした。
そのとき、バリデーションの活用によって、「最期まで自立していたい」との本心から介護を拒否していたことがわかったのです。
そして、介護職員に理解してもらえたことがわかった利用者様は、今までと打って変わって介護拒否をしなくなり、穏やかに過ごすようになりました。
このように、バリデーションはとても可能性を秘めたコミュニケーション方法です。
多くの介護施設での導入が期待されます。
参照:社会福祉法人 豊悠福祉会 祥雲館
最後に、バリデーションの知識やスキルの習得方法について解説します。
バリデーションを身に付ける方法の一つ目は、書籍を読んだりDVDを見たりすることです。
書籍やDVDはそれほど多く販売されてはいませんが、手軽にバリデーションの基本的態度や基本テクニックを身に付けるためには適した方法です。
価格は書籍なら数千円ですが、DVDなら約1万円です。
また、もっと気軽に勉強したい方は、YouTubeを視聴するという方法もあります。
YouTubeを一度見てから、さらに勉強した方は書籍やVDを購入してもよいかもしれません。
バリデーションを身に付ける方法の二つ目は、一般社団法人公認日本バリデーション協会の研修に参加することです。
同協会は、バリデーションにおける日本で唯一の公式団体です。
研修は難易度によってLevel1からLevel3までの3段階に分かれています。
Level3の「バリデーション・ティーチャー」のコースの修了者は、Level1とLevel2の研修を行える資格を取得できます。
ただ、Level1の研修でも1年間にわたって行われ、受講料も10万円以上することから、本格的にバリデーションを学びたい方が受講するほうがよいかもしれません。
もう少し気軽にバリデーションについて学びたい方は、数千円で参加できるオンラインセミナーがおすすめですよ。
参照:一般社団法人 公認日本バリデーション協会
バリデーションは、認知症の方とのコミュニケーション方法です。
認知症の方の感情に焦点を当てることが特徴で、介護される側だけではなく介護する側にも様々な効果があります。
基本的手法には基本的態度と基本的テクニックがあり、日頃から介護現場で認知症の方に接している介護職員にとっては、身につけやすい方法と言えるかもしれません。
バリデーションを身につける方法としては、書籍・DVDの購入や研修受講などの様々な方法があります。
バリデーションを身につけて認知症ケアに役立てましょう。
※掲載情報は公開日あるいは2023年06月05日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。