更新日:2023年09月28日
公開日:2023年08月21日
介護業界で仕事をしているけれど、働く中で今後自分が適正に評価され年収が上がっていくのか不安を感じているという人はいませんか?
この記事では、介護業界で働く人の年収の現状から今後の見通しまで詳しく解説します。
介護業界で働く人は、どのくらいの年収を得ているのでしょうか。
職種別にご紹介します。
職種 | 年収 |
訪問介護員/ホームヘルパー | 353.2万円 |
施設介護員 | 362.9万円 |
老人福祉施設生活相談員 | 415.7万円 |
介護支援専門員/ケアマネージャー | 405.8万円 |
施設管理者(介護施設) | 415.7万円 |
介護業界では資格を取得しスキルアップすることで、少しずつ年収がアップしていくのがわかります。
参考:「厚生労働省職業情報提供サイト Jobtag」
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の平均年収は311.8万円でした。
この数値を介護業界で働く人たちの年収と比較すると、一番年収が低いとされるホームヘルパーでも41万4千円、一番年収が高い施設管理者では103万9千円もの差があるのがわかります。
それなのになぜ介護業界で働く人の年収は低いと言われているのでしょうか。
3つご紹介します。
参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが行った「令和3年度 介護労働実態調査」において、19,925人の介護職員に対して賞与の状況についてたずねた所、次のような結果が出ました。
制度として賞与の仕組みがある | 経営状況によって支払われることもある | 賞与はない | わからない | 無回答 | |
全体 | 61.0% | 14.6% | 18.9% | 4.2% | 1.2% |
訪問介護員 | 53.2% | 14.6% | 25.2% | 5.0% | 2.1% |
サービス提供責任者 | 65.2% | 16.7% | 13.8% | 3.1% | 1.2% |
介護職員 | 63.7% | 13.0% | 17.2% | 4.9% | 1.2% |
介護支援専門員 | 55.6% | 15.6% | 26.0% | 1.9% | 0.9% |
職種にもよりますが、「賞与はない」という回答をした人が20%~25%、経営状況によって支払われることもあるという回答をした人が15%前後なので、おおむね35%~40%程度の人は賞与が支払われないこともあるのです。
年収を底上げするのが賞与だということを考えると、賞与が支払われない場合年収が低いとイメージされやすいのではないでしょうか。
「令和3年度 介護労働実態調査」において、19,925人の介護職員に対して現在の仕事への満足度についてたずねた所、次のような結果が出ました。
満足 | やや満足 | 普通 | やや不満足 | 不満足 | 無回答 | 満足度D.I(「満足」+「やや満足」)-(「やや不満足」+「不満足」) | |
賃金 | 7.6% | 15.8% | 37.0% | 24.4% | 12.7% | 2.4% | -13.7 |
人事評価・処遇のあり方 | 8.9% | 15.7% | 47.2% | 16.9% | 8.3% | 2.9% | -0.6 |
教育訓練・能力開発のあり方 | 6.2% | 13.6% | 53.3% | 17.0% | 6.9% | 3.0% | -4.1 |
マイナスの場合満足より不満足な人が多いことを表す満足度D.Iがマイナスだった項目は上記の3つで、特に年収にかかわる「賃金」では満足度が低い状況です。
賃金が低くてもそれが適正な評価に基づいたものなら満足度は低くならないはずなので、人事評価や処遇のあり方にも不満があるのがうなずける結果と言えるでしょう。
また重労働の割にはスキルアップをしたと感じにくいため、介護職員が教育訓練や能力開発にもっと力を入れてほしいと考えるようになるのも理解できます。
このように賃金が適正な人事評価に基づいていないという不満が多いことから、介護業界は年収が低いというイメージが強くなっているのがわかります。
「令和3年度 介護労働実態調査」において、19,925人の介護職員に対して労働条件についての悩み、不安、不満について聞いた所、次のような結果が出ました。
労働条件についての悩み、不安、不満 | 割合 |
仕事内容の割に賃金が低い | 38.3% |
不払い残業がある・多い | 4.7% |
有給休暇が取りにくい | 25.6% |
労働条件についての悩み、不安、不満の中に、賃金そのものが低いことや年収を低下させる要因が含まれている現状がうかがえるため、このような要因が減少しない限り介護業界の年収が低いイメージはなくなりにくいと言えるでしょう。
参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度 介護労働実態調査結果について」
介護業界で働く人が年収アップするには、どのような方法があるのでしょうか。
3つご紹介します。
介護業界で年収アップを目指すなら、まずは経営状態の良い事業所で働きましょう。
介護事業者の経営指標を示す数値として、収益額に対する収益と費用の差額の割合を示し差が大きいほど経営状態が良いことを示す「収支差率」があります。
収支差率は、厚生労働省が定期的に行う「介護事業経営概況調査」「介護事業経営実態調査」でサービスごとに発表されます。
2022年に厚生労働省が「介護事業経営概況調査」で発表した、サービス別の収支差率は次の通りです。
サービスの種類 | サービス名 | 2021年度決算における収支差率 |
施設サービス | 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 1.3% |
介護老人保険施設(老健) | 1.9% | |
介護療養型医療施設 | 0.6% | |
介護医療院 | 5.8% | |
居宅サービス | 訪問介護 | 6.1% |
訪問入浴介護 | 3.7% | |
訪問看護 | 7.6% | |
訪問リハビリテーション | 0.6% | |
通所介護(デイサービス) | 1.0% | |
通所リハビリテーション | 0.5% | |
短期入所生活介護(ショートステイ) | 3.3% | |
特定施設入居者生活介護 | 4.0% | |
福祉用具貸与 | 3.4% | |
居宅介護支援 | 4.0% | |
地域密着型サービス | 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 8.2% |
夜間対応型訪問介護 | 3.8% | |
地域密着型通所介護 | 3.4% | |
認知症対応型通所介護 | 4.4% | |
小規模多機能型居宅介護 | 4.7% | |
認知症対応型共同生活介護 | 4.9% | |
地域密着型特定施設入居者 生活介護 | 3.0% | |
地域密着型介護老人福祉施設 | 1.2% | |
看護小規模多機能型居宅介護 | 4.6% | |
全サービス平均 | ー | 3.0% |
サービスの種類で見ると収支差率が高いのは地域密着型サービスで、個別のサービスでは定期巡回・随時対応型訪問介護看護、訪問看護、介護医療院など医療に関わるものが高いのがわかります。
また2022年11月に行われた「第101回社会保障審議会介護保険部会」では、介護サービス事業者の財務状況の見える化について審議が行われ、2024年からの適用を目指しています。
これらのことから介護業界で働く人にとっては、少しずつ介護サービス事業所の経営状態を把握しやすい環境が整ってきていると言えるでしょう。
一方2022年に厚生労働省が発表した「介護従事者処遇状況等調査」において、7,284件の事業所を対象に給与等の引き上げを行わなかった理由についてたずねた所、「経営が安定しないため」と回答した事業所が50.1%だったのです。
前の項目でご紹介したように、介護業界では経営状況によって賞与が支払われる事業所が一定数あることから、年収を上げたいならまず事業所の経営状態をチェックするのが大切です。
参考:厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査の概要」
参考:厚生労働省「第101回社会保障審議会介護保険部会」
参考:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」
介護職員が年収を上げたいなら、国の制度を利用して給与や賞与を引き上げてくれる事業所で働きましょう。
2022年に厚生労働省が発表した「介護従事者処遇状況等調査」において、6,512件の事業所を対象に給与等の引き上げの理由についてたずねた所、次のような結果でした。
介護職員処遇改善加算を踏まえて給与等を引き上げた | 介護職員等特定処遇改善加算を踏まえて給与等を引き上げた | 介護職員処遇改善支援補助金を踏まえて給与等を引き上げた | 介護職員等ベースアップ等支援加算を踏まえて給与等を引き上げた | 左記に関わらず給与等を引き上げた | ||
割合 | 27.8% | 15.9% | 52.5% | 64.9% | 25.7% | 1.7% |
上記のように介護保険における加算や国による補助金制度などに関心を持ち、それらを利用して介護職員の給与を引き上げてくれる事業所で働くと、年収の底上げにつながるでしょう。
参考:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」
介護職員が年収アップを目指すなら、人事評価制度が明確な事業所で働きましょう。
2022年に厚生労働省が発表した「介護従事者処遇状況等調査」において、1,283件の事業所を対象に給与等の引き上げの要件についてたずねた所、次のような結果でした。
給与等の引き上げ要件 | 割合 |
勤続年数 | 24.4% |
経験年数 | 14.3% |
資格の保有 | 24.8% |
サービス提供責任者であること | 3.9% |
主任介護支援専門員であること | 1.0% |
勤務形態(常勤・非常勤) | 27.9% |
雇用形態(正規・非正規) | 20.2% |
勤務時間 | 11.9% |
管理職であること(ユニットリーダーをのぞく) | 7.1% |
管理職以外であること | 10.3% |
人事評価 | 37.9% |
要件に関わらない | 6.9% |
その他 | 13.8% |
介護業界では給与の引き上げ要件が細かく分かれており、人事評価に基づいて引き上げを行っている事業所は37.9%という結果となっています。
人事評価制度や給与の引き上げ要件が明確な事業所で働くと、どのような働き方をすれば給与が上がるのかがわかるため、年収アップにもつながりやすくなるでしょう。
介護業界で働く人の今後の年収の見通しはどのようなものなのでしょうか。
年収に影響を与えそうな要因を3つご紹介します。
2023年6月に財務省が公表した予算執行調査の結果によると、現預金・積立金の水準が上昇しているにもかかわらず、一部の法人においては職員の給与に十分には還元されていない可能性があるとわかりました。
そのため財務省では、介護職員の給与への適切な還元を促進する仕組み作りを検討した方がよいとの提言をしたのです。
具体的には複数事業所の経営や事業規模の確保を促進し、経営状況の安定や改善を図り、職員の給与の引き上げにつなげることが重要だとしています。
このことから今後事業所の大規模化や協働化が進み、それによって経営が安定した事業所では介護職員の年収増加が見込めると言えるでしょう。
参考:財務省「調査結果(令和5年6月)」
2023年7月現在、「介護 人事考課 書き方」でGoogle検索をすると21,600,000件ものページがヒットすることから、介護業界における適正な人事評価制度への関心が高まっているのがうかがえます。
介護業界ならではの人事評価制度として、「介護プロフェッショナル段位制度」といった仕組みも生まれています。
介護プロフェッショナル段位制度とは、介護職員の「わかる(知識)」と「できる(実践的スキル)」の両面を評価し、評価者(アセッサー)講習を受けた評価者が7段階でレベル認定を行う制度です。
このような最新の人事評価制度を取り入れ、適正な評価をする事業所が増加することで今後は実力に見合った年収を得られる人が増えるでしょう。
参考:「介護プロフェッショナル段位制度」
2022年に株式会社東京商工リサーチが行った、老人福祉・介護事業の倒産状況の調査結果によると、倒産件数は143年(前年比76.5%増)で2000年の調査開始依頼最多となりました。
倒産が増えた原因はコロナ禍で感染防止対策のためのコスト増、利用頻度の減少、また家族の在宅勤務増加による需要減などがありますが、新しい生活様式に対応できず利益を生めなかった事業所が淘汰されたとも考えられます。
今後も介護事業者の倒産は加速するのではないかとも予想されていますが、働く人にとっても資金に余裕がある事業所で働けるようになるチャンスとも言えるでしょう。
参考:株式会社東京商工リサーチ「コロナ禍と物価高で急増『介護事業者』倒産は過去最多の143件、前年比1.7倍増~ 2022年『老人福祉・介護事業』の倒産状況 ~」
介護業界で働く人の年収は一般労働者の平均年収と比較すると40万円~100万円程度多いため、決して低いわけではありません。
しかし賞与がなかったり、人事評価制度が整っていなかったりする場合もあるため働く人の満足度が低く、年収が低いというイメージにつながっています。
少しずつですが現在経営状態の良くない事業所は淘汰され、介護業界ならではの人事評価制度も広まってきているため、今後はスキルや経験、資格取得などが適切に評価され、年収アップにもつながっていくでしょう。
この記事も参考にして、ぜひ自分なりの年収アップの方法を探してみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2023年09月28日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。