働き方改革が進められ、企業では残業時間が厳しく管理されるようになりました。
よくブラックといわれる介護業界ですが、過度な残業やサービス残業はあるのでしょうか?
介護業界での残業の実態について調査しました。
介護職の残業の実態
介護職の残業時間について調べてみました。
以下は、全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書」による時間外労働についての調査結果です。
◆始業前・終業後共に半数以上は残業あり
■始業前
「始業前の時間外労働がない」と回答した人は3割以下という結果で、多くの職員が始業前から業務を行っていることがわかります。特に2交替の夜勤は、25%以上の職員が30分以上の時間外労働をしています。 ■終業後
準夜勤帯では「終業後の残業なし」が4割を超えています。一方、他の時間帯の勤務では多くの職員が時間外労働をしており、日勤帯と2交替の夜勤は4割近くが30分以上の残業をしています。特に日勤帯では1時間以上の残業が 17.5%と非常に多くなっています。 ◆ひと月の残業は平均8.2時間
雇用形態 | 平均残業時間 |
正規職員 | 10.2時間 |
非正規(フルタイム) | 5.3時間 |
非正規(フル以外) | 2.0時間 |
下請・派遣 | 2.7時間 |
嘱託・雇用継続 | 8.0時間 |
その他 | 9.0時間 |
「時間外労働がない」と回答した人は3割程度で、残りの約7割が毎月残業をしています。
ひと月の残業時間は「5時間未満の回答が約2割」と最も多くなっています。
平均の時間外労働は全体で 8.2 時間、雇用形態別ではやはり正規雇用の職員が10.2時間と最も長くなっています。
◆4人に1人の介護職員がサービス残業
不払い残業時間 |
0時間 | 75.0% |
5時間未満 | 8.8% |
5~10時間 | 6.7% |
10~15時間 | 4.2% |
15〜20時間 | 1.4% |
20~25時間 | 1.7% |
25~30時間 | 0.4% |
30~35時間 | 0.4% |
35〜40時間 | 0.3% |
40~45時間 | 0.5% |
45時間以上 | 0.6% |
施設勤務の職員で不払い残業が「なし」と回答した人は 75.0%でした。裏を返せば4人に1人(25%)はサービス残業をしています。決して「残業代を請求しても不払いになる」というわけではなく、請求できる雰囲気ではないため自ら諦めている
という職員の方が大多数のようです。 なおこの調査は労働組合がある事業所を対象にしているため、労働組合のない施設・事業所では、この結果以上に不払い残業が横行している可能性があります。 ◆サービス残業をする理由
サービス残業をする理由(複数回答) |
自分から請求していない | 70.9% |
請求できる雰囲気にない | 40.3% |
請求しても削られる | 4.5% |
請求する時間の上限が決められている | 11.3% |
支給されない業務や会議がある | 25.8% |
その他 | 6.4% |
サービス残業の理由として最も多かったのは「自分から請求していない」。多くの職員が最初から残業代を諦めて自ら請求していないということがわかりました。また「請求しても削られる」「請求時間の上限が決められている」「支給されない業務・会議がある」など施設側の都合で不払いとなっているケースも3割を超えています。出典:全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書 (※本コラムの残業に関する調査結果・データは全てこちらを引用しております。) 介護職で残業が多くなる原因
ではどういった場合に残業時間が増えてしまうのでしょうか?
同じく全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書」の調査結果を見ていきましょう。
残業の要因 | 始業前 | 終業後 |
利用者へのケア家族等への対応 | 23.1% | 47.1% |
ケアの準備・片づけ | 45.3% | 41.1% |
情報収集・記録 | 68.6% | 69.0% |
レク・施設行事 | 3.2% | 6.1% |
レク・施設行事の準備 | 7.2% | 13.7% |
利用者の送迎 | 5.2% | 12.7% |
会議・委員会・研修等 | 4.9% | 33.8% |
職場ミーティング | 10.9% | 26.8% |
その他 | 7.6% | 10.4% |
残業の要因は情報収集・記録が約70%と最も多く、ほとんどの職員が記録などの事務的な作業に時間をとられているようです。
ケアの準備・片づけ、利用者へのケア・家族等への対応、送迎、会議といった本業務も、始業前に設定・実施されているという実態です。
また、終業後の残業には会議、職場ミーティングが多く見られます。
特に会議・委員会・研修等は、30%以上が時間外労働で行っていると回答。
現場の人員不足が顕著に現れています。
◆サービス残業の3割は会議・委員会・研修
サービス残業の要因 | 始業前 | 終業後 |
利用者へのケア 家族等への対応 | 23.8% | 36.1% |
ケアの準備・片づけ | 47.6% | 36.2% |
情報収集・記録 | 71.1% | 63.2% |
レク・施設行事 | 5.6% | 9.3% |
レク・施設行事の準備 | 10.4% | 17.9% |
利用者の送迎 | 3.2% | 5.2% |
会議・委員会・研修等 | 6.2% | 31.2% |
職場ミーティング | 10.6% | 17.3% |
その他 | 7.9% | 11.7% |
始業前・終業後ともに、サービス残業の多くが情報収集・記録、ケアの準備・片づけなどの業務です。特筆すべきは利用者へのケア・家族等への対応、利用者会議・委員会・研修等といった業務がサービス残業になっている
点。どちらも終業後のサービス残業の3割以上となっています。 出典:全国労働組合総連合「介護労働実態調査 報告書 こんな残業は違法です
労働基準法とは労働者の権利と尊厳を守るための法律です。
労働するうえでの最低基準を定められています。
この基準に反している労働条件は無効となり、労働基準法が適用されます。
働いていて「何かおかしいな?」と感じることがあればうやむやにせず、まずは労働基準法を確認してみましょう。
残業面の違反に関しては下記の3点、
・労働時間オーバー
・割増賃金なし
・サービス残業
が、特に注意すべき項目です。
労働時間オーバー
あなたは毎月どの程度の時間外労働をしているでしょうか?残業が多すぎるのでは?と感じる場合には、時間外労働の基準が守られているかを確認してみてはいかがでしょうか。 現在、労働基準法において、労働時間は原則1日8時間・1週40時間と定められています。この法定労働時間を超えて時間外労働や休日勤務などを命じる場合には、36(サブロク)協定の締結、届出が必要とされています。 36協定を結んだ場合には、月45時間・年360時間の時間外労働が認められています。特別条項付きの36協定を結んでいる場合には、上記よりもさらに労働時間の延長が可能となります。 しかしこれらには様々な条件や上限が規定されており、それ以上の時間外労働は法律違反となります。 時間外労働の基準について、詳しくはこちらからご確認いただけます。時間外労働の限度に関する基準|厚生労働省
割増賃金なし
時間外労働、休日労働、深夜労働をした場合には割増賃金の支給が義務付けられています。
時間外労働の場合、割増賃金は通常の賃金の1.25倍と規定されています。
休日労働は1.35倍、深夜労働は1.25倍です。
1時間あたりの賃金額 × 割増率 × 時間数で算出します。
今まで気にしたことがなかったという方は、ご自身の時間外労働に割増賃金が適用されているか、ぜひ一度給与明細を確認してみてください。
サービス残業
3つ目はサービス残業。サビ残、賃金不払い労働ともいわれます。
「残業をすることはまだしも、サービス残業ってアリなの?」と疑問に思いませんか?
当然、サービス残業は立派な労働基準法違反であり、施設や事業所側が容認してはいけない問題です。
介護職の場合は残業代を申請することなく自主的にサービス残業をしている職員も多いようですが、例え10分15分でもチリも積もれば山となります。
決しておすすめできることではありません。
働いた分の対価はきっちりと支給してもらえる適切な労務管理のもとで働きましょう。
介護職の残業問題、解決策は?
残業を減らすには業務の見直しや、職員同士の協力体制を作っていくことが必要不可欠です。職員のスキルアップ、教育体制の強化や業務効率化に施設全体で取り組むことで改善できる部分はあるでしょう。 しかし根本的な問題として「慢性的な人員不足」や「介護報酬減による人件費削減」があり、それによって職員の自主的なサービス残業が発生しているという状況が考えられます。これは現在の日本の介護保険制度から起こっている問題ともいえます。 そういったなかで、国では「2040年を展望した社会保障・働き方改革」と題した改革プランの作成が進められています。介護・福祉分野も例外ではありません。「医療・福祉サービス改革プラン」において、介護職員の平均労働時間・残業時間を2020年度末までに縮減すると明記しています。 具体的には、・介護事業所における作成文書の見直し・ICT化・職員配置の見直し・業務プロセスの構築・介護ロボットの活用といった取組みを推進し、横展開していくことを目指すというものです。 2040年を展望した社会保障・働き方改革本部|厚生労働省
これらの取り組みによって介護・福祉業界の労働環境の改善が早急に進められることを期待します。 まとめ
介護職の残業は、利用者の不調や事故など突発的に発生する場合も多々あるでしょう。
やむを得ず残業をしなければいけない場合には、規定範囲内の時間で働き、サービス残業ではなく必ず残業代を支給してもらうようにしてくださいね。
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