更新日:2022年09月28日
公開日:2022年09月15日
家族が急に要介護状態となったので仕事を休んでサポートをしたいけれど、今後ずっと有給休暇を使って休むのは会社に迷惑をかけてしまうと悩んでいる人はいませんか?
この記事では仕事と介護を両立させるためにできた制度、介護休暇について詳しく解説します。
介護休暇とは、仕事と介護の両立を支援するための制度の1つで、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するための休暇と位置づけられており、有給か無給かは会社の規定によります。
2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態とは、どのような状態を指すのでしょうか。
判断基準は以下2つのどちらかに該当する場合と定められています。
1.介護保険制度の要介護状態区分において要介護 2 以上であること
2.表の項目における①〜⑫のうち、状態2が2つ以上または状態3が1つ以上該当し、その状態が継続すると認められること
状態1 | 状態2 | 状態3 | |
①座位の保持(10 分間一人で座っていることができる) | 自分でできる | 支えてもらえればできる | できない |
②歩行(立ち止まらず、座り込まずに5 m 程度歩くことが できる) | つかまらないでできる | 何かにつかまればできる | できない |
③移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間などを乗り移る動作) | 自分でできる | 一部介助、見守りなどが必要 | 全面的な介助が必要 |
④水分や食事の摂取 | 自分でできる | 一部介助、見守りなどが必要 | 全面的な介助が必要 |
⑤排泄 | 自分でできる | 一部介助、見守りなどが必要 | 全面的な介助が必要 |
⑥衣類の着脱 | 自分でできる | 一部介助、見守りなどが必要 | 全面的な介助が必要 |
⑦意思の伝達 | できる | 時々できない | できない |
⑧外出すると戻れない | ない | 時々ある | ほとんど毎回ある |
⑨物を壊したり衣類を破くことがある | ない | 時々ある | ほとんど毎回ある |
⑩周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがある | ない | 時々ある | ほとんど毎回ある |
⑪服薬 | 自分でできる | 一部介助、見守りなどが必要 | 全面的な介助が必要 |
⑫日常の意思決定 | できる | 本人に関する重要な意思決定はできない | ほとんどできない |
介護保険における要介護状態とは異なる基準のため、介護保険の要介護認定の結果通知書や医師の診断書の提出を介護休暇制度利用の条件にすることはできないのを覚えておきましょう。
事業主には、この基準にとらわれすぎずに労働者が介護と仕事を両立できるように運用することが望まれます。
参考:厚生労働省「常時介護を必要とする状態に関する判断基準」
介護休暇と混同されやすいのが介護休業ですが、この2つはどのような違いがあるのでしょうか。
表にまとめてみました。
利用日数 | 利用回数 | 取得単位 | 手続方法 | |
介護休暇 | ・対象家族が1人の場合年5日まで ・対象家族が2人以上の場合年10日まで | - | ・1日または時間単位 | ・書面だけではなく口頭の申出でも可 |
介護休業 | ・通算93日まで | ・対象家族1人につき3回まで | - | ・休業開始予定日の2週間前までに、書面などにより事業主に申出をする |
介護休暇も介護休業も仕事と介護の両立を支援するための制度の1つであることに変わりはありませんが、短期間の介護が必要な場合は介護休暇、長期間の介護が必要な場合は介護休業を取得するのが望ましいと言えるでしょう。
介護休暇は年次有給休暇とは別に取得できますが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。
表にまとめてみました。
基となる法律 | 休暇の目的 | 対象者 | 取得義務 | 賃金 | |
介護休暇 | ・育児・介護休業法 | ・家族の介護や世話 | ・対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く) | ・なし | ・有給か無給かは会社の規定による |
有給休暇 | ・労働基準法 | ・労働者の心身の回復 | ・業種、業態にかかわらず、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者 | ・有給休暇の日数のうち年5日について、事業者が時季を指定して取得させることが必要 | ・支給される |
介護休暇と有給休暇では基となる法律が異なり、休暇の目的も介護休暇が家族の介護や世話であるのに対し、有給休暇は労働者の心身の回復であることが大きな違いと言えるでしょう。
介護休暇制度は、どのような背景があって設立された制度なのでしょうか。
3つご紹介します。
2022年に内閣府が発表した「令和4年版高齢社会白書」によると、日本の総人口は2021年10月1日現在1億2,550万人で、そのうち65歳以上の人口は3,621万人でした。
総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.9%ですが、2025年には30.0%、2065年には38.4%に達すると予想されています。
また2021年7月に発表された厚生労働省における報道発表資料の「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、必要となる介護職員の数は2023年度には約233万人、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人になると推計されました。
これを2019年度の介護職員数である約211万人と比較すると、2023年度には約22万人、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人の介護職員が不足することとなります。
日本における急激な高齢化は介護職員の不足をもたらすため、今後は家族もある程度介護を担わなければならない可能性があるということです。
これらのことから日本では仕事と介護を両立するという考え方が生まれ、介護休暇制度や介護休業制度の設立に至ったと言えるでしょう。
参考:内閣府「令和4年版高齢社会白書」
参考:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
介護離職とは、家族や親族の介護をするために仕事をやめてしまうことを指します。
2020年に厚生労働省が発表した「令和2年雇用動向調査」によると介護が必要となる高齢者の子供世代となる40代~50代の男女における介護・看護を理由とする離職率は次の通りです。
年齢 | 男性の一般労働者 | 男性のパートタイム労働者 | 女性の一般労働者 | 女性のパートタイム労働者 |
40才~44才 | 0.0% | 0.3% | 0.1% | 0.3% |
45才~49才 | 0.0% | 0.1% | 0.1% | 0.4% |
50才~54才 | 0.0% | 0.0% | 0.1% | 0.4% |
55才~59才 | 0.0% | 0.2% | 0.4% | 0.5% |
離職者全体で見ると介護離職をする人の割合は多いとは言えませんが、株式会社大和総研が2019年に発表した「介護離職の現状と課題」によると、介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は1年当たり約6,500億円と見込まれているのです。
このことから日本では経済的な損失を防ぐためにも、介護休暇制度や介護休業制度を充実させ、労働者が介護と仕事を両立できる環境を整えようとしていると言えるでしょう。
参考:厚生労働省「令和2年雇用動向調査結果の概要」
参考:株式会社大和総研「介護離職の現状と課題」
ミッシングワーカーとは労働経済学の用語で、雇用統計上求職活動をしていないため失業者としてカウントされない人のことを指します。
介護離職をし、家族や親族の介護だけをしている人はミッシングワーカーに含まれます。
2018年6月2日に放送されたNHKスペシャル「ミッシングワーカー 働くことをあきらめて・・・」では専門家によりミッシングワーカーが103万人いると推計されました。
ミッシングワーカーが増加すると経済的な損失を生むだけではなく、貧困層の拡大や社会と隔絶して生きる人の増加など、さまざまな社会問題につながります。
ミッシングワーカーになる人を増やさないためにも、日本では介護離職を予防できる介護休暇制度や介護休業制度を作ったと言えるでしょう。
参考:NHKスペシャル「ミッシングワーカー 働くことをあきらめて・・・」
介護休暇制度を積極的に活用するために、労働者として覚えておきたいポイントを3つご紹介します。
介護休暇制度の対象となるのは常時介護を必要とする状態にある家族を介護する、日雇い以外の労働者です。
しかし、労働者と事業者が労使協定を締結している場合、次の労働者が対象外となります。
・入社6か月未満の労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
介護休暇制度を利用したい場合は、自分が介護休暇を取得できる条件に当てはまるかどうかを確認するようにしましょう。
介護休暇制度の対象となる家族は、事実婚を含む配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。
「子」の範囲は、養子を含む法律上の親子関係がある子だけとなるため注意しましょう。
介護休暇を取得できる日数は介護の対象となる家族が2人の場合年5日まで、介護の対象となる家族が2人以上の場合年10日までとなります。
事業主が特に定めない場合、1年は毎年4月1日から次の年の3月31日までです。
1日単位、時間単位両方で取得ができ、手続方法が書面だけではなく口頭での申出でもよいため、比較的柔軟に休暇を取得できるのはないでしょうか。
介護休暇制度の対象となるのは、常時介護を必要とする状態にある家族を介護する日雇い以外の労働者で、正社員、契約社員、派遣社員などの雇用形態を問いませんが、職業によって制度内容にはどのような違いがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
国家公務員における介護休暇制度は常勤職員と非常勤職員で少し異なるため、内容を表にまとめてみました。
介護時間 | 短期介護休暇 | 介護休暇 | |
常勤職員 | ・30分単位(2時間まで)の無給休暇 ・家族1人につき3年間まで ・要介護状態が変化した時再取得できる ・勤務時間の始めか終わりに取得すること | ・日または時間単位の有給休暇 ・通院の付き添いや、介護サービスの手続の代行(間接的介護)にも利用できる ・1年に5日(要介護の家族が2人以上なら10日)まで | ・日または時間単位(4時間まで)の無給休暇 ・家族1人につき6か月まで(3回まで分割できる) ・要介護状態が変化した時再取得できる ・期間内に出勤する日を設けてもよい |
非常勤職員 | ・30分単位(2時間まで)の無給休暇 ・家族1人につき3年間まで ・勤務時間の始めか終わりに取得すること | ・日または時間単位の無給休暇 ・通院の付き添いや、介護サービスの手続の代行(間接的介護)のにも利用できる ・1年度に5日(要介護の家族が2人以上なら10日)まで | ・日または時間単位(4時間まで)の無給休暇 ・家族1人につき93日まで(3回まで分割できる) ・期間内に出勤する日を設けてもよい |
国家公務員の場合、一般的な介護休業を介護休暇と呼び、一般的な介護休暇で日単位で取得する場合を短期介護休暇、時間単位で取得する場合を介護時間と呼んでいることがわかるでしょう。
参考:人事院「妊娠・出産・育児・介護と仕事の両立支援のページ」
地方公務員における介護休暇制度と介護休業制度については、育児・介護休業法の第61条に「公務員に関する特例」として定められています。
介護休業は合算して93日を超えない範囲で3回まで取得でき、介護休暇は対象家族が1人の場合年5日まで、対象家族が2人以上の場合年10日まで取得することができます。
ただし、地方自治体によって休暇の要件や申請方法などには違いがあるため、詳細についてはそれぞれの地方自治体のホームページで確認するのが望ましいでしょう。
参考:e-GOV法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」
教員の介護休暇や介護休業については、それぞれの地方自治体における学校職員の勤務時間、休日、休暇に関する条例でそれぞれ定められています。
そのため地方自治体によって制度の内容が異なりますが、参考として東京都教育委員会における介護休暇制度についてご紹介します。
介護時間 | 短期の介護休暇 | 介護休暇 | |
対象 | ・配偶者、二親等以内の親族、または同一世帯の人を介護する職員 | ・配偶者、二親等以内の親族、または同一世帯の人を介護する職員 | ・配偶者、二親等以内の親族、または同一世帯の人を介護する職員 |
内容 | ・取得の初日から3年以内で、正規の勤務時間の始めか終わりに1日につき2時間以内(無給) ・30分単位での取得もできる | ・原則1日を単位として1年で5日以内 ・複数の要介護者がいる場合は10日以内 | ・連続する6か月の期間内で必要と認められる期間(無給) ・承認期間が通算180日に満たない場合、180日を限度に2回まで更新ができる ・日、時間を単位とし、連続・断続して利用することもできる |
申請手続 | ・「介護時間承認申請書(規則第6号様式)」で申請する | ・「要介護者の状態等申出書」と休暇・職免等処理簿で申請する | ・「介護休暇申請書兼処理簿(規則第4号様式)」で申請する |
国家公務員と同じように、一般的な介護休業を介護休暇と呼び、一般的な介護休暇で日単位で取得する場合を短期の介護休暇、時間単位で取得する場合を介護時間と呼んでいます。
また申請手続は全て書面で行う必要があるのも一般的な介護休暇とは異なる点であると言えるでしょう。
参考:東京都教育委員会「学校職員のための勤務時間・休暇等制度の概要の掲載について」
介護休暇とは、仕事と介護の両立を支援するための制度の1つで、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある家族を介護するための休暇です。
介護離職をしないようにするためにも、この記事も参考にして自分の会社における介護休暇制度や介護休業制度について理解を深めてみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2022年09月28日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。